運命。

「挑戦者決定戦でかなり多く負けてしまっていたので、ここで一つ結果を出すことができてよかったのと。それが王座戦というのは、運命というか、そういうものを感じます」(永瀬拓矢九段)

 運に左右されることのない将棋。だが、ときに運や運命を感じることがある。

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昨年行われた第71期王座戦五番勝負では、フルセットの末、藤井聡太竜王・名人がタイトルを奪取した ©文藝春秋

運命の雪辱戦

 2023年4月、棋聖戦の挑戦者決定戦で佐々木大地七段に敗れる。

 同8月、竜王戦挑戦者決定三番勝負は伊藤匠七段に連敗し、竜王初挑戦ならず。

 同10月、藤井聡太に王座を奪われ、「八冠制覇」を許す。

 同11月、王将戦挑戦者決定リーグ、前月に菅井竜也八段には勝ったものの、最終戦で佐々木勇気八段に敗れ、4勝2敗でプレーオフに届かず(菅井が5勝1敗で挑戦)。

 2024年3月、叡王戦挑戦者決定戦で伊藤匠七段に再度敗れる。

 このように、あと一歩のところでタイトル挑戦を逃し続けた。それが、まさかこの王座戦で挑戦、リターンマッチとなるとは。王座戦の歴史の中でも、前年度の王座による挑戦はこれが3度目だ。

 しかも挑戦者決定トーナメント準決勝の相手は、永瀬にとって第二の師匠とも言うべき鈴木大介九段。さらに挑戦者決定戦の相手は王座在位24期のレジェンド、羽生善治九段だった。永瀬も「準決勝で鈴木先生と当たったり、挑戦者決定戦で羽生先生と当たったり。私としては運命的な組み合わせ」と語っている。

現在「七冠」を保持する藤井聡太王座

「今期の王座戦は永瀬くんには是が非でも……」

 そのリターンマッチ第1局の4日後のことだが、9月8日、日本将棋連盟「100周年を祝う会」が帝国ホテルで開催され、顔を合わせた鈴木に話を聞くことができた。

――永瀬さんと久々に戦った感想を聞かせていただけませんか。

「指導対局でした(笑)。正直、研究会でもボッコボコにやられているんで(笑)。たぶんこれが上のほうで戦うのは最後だと思って、体調も整えて、久しぶりに時間いっぱい使ったんですが、時間いっぱい使うと緊張してだめですね。ハハハ(近くにいた永瀬と2人揃って笑う)。いいところも消えちゃうんで。いつもどおりバシバシと指して、展開が向いたら勝つというほうがよかったです(笑)。

 ただ、力いっぱい指せましたので、いい記念になりましたよ。王座戦では永瀬くんと当たるのを目標に戦っていました。2次予選から5連勝して、藤本くん(藤本渚五段)とか大地くん(佐々木大地七段)とか、強い若手に勝って当たれたのは運命的というか。だからね、今期の王座戦は永瀬くんには是が非でも……」