藤井聡太王座に永瀬拓矢九段が“リターンマッチ”を挑む、第72期王座戦五番勝負第1局。
昼食休憩明け、両者が厳しい表情を見せる中、藤井の巧みな攻めが光った。
永瀬玉を守る金銀を、歩のたたきで上ずらせて乱し、馬金銀の三方取りで銀を打ち、さらに王手で桂を打ち込む。永瀬はあえて狭い9筋に玉を逃げ、底に銀を打って詰めろを受けた。そして藤井玉に反撃、玉頭の金取りに桂を跳ねる。
しかし、藤井が金を逃げたのを見て頭をかかえた。永瀬は迷ったような手つきで端に桂を成り捨てたが、誤算があったことは明らかだ。
最後は予想だにしなかった手で勝負が決まった
永瀬の6四銀と1三成桂、そして藤井の2四金、あちこちで駒取りになっている。予想だにしなかった展開に、控室も驚きながら、ようやく結論を出した。永瀬の攻め駒が2筋で渋滞しているのでこちらは触らず、6四銀を取って藤井玉を右辺に逃がす。自陣の金と飛車が玉を守ってくれるので、藤井が残していると。
ところがどっこいである。102手目、藤井はまったく別のことを考えていた。7七金取りに6八角と打った。そして自陣では爆弾になりそうな成桂を払う。続いて6筋の角を、2筋で走ってきた香と刺し違えると、取ったばかりの香を飛車の鼻先に叩きつけたのだ。攻め駒を消して安全勝ちを目指したように見えて、そうではない。
永瀬は歩を打って金を奪った。永瀬玉は一瞬詰まない。駒台には角角金金がある。藤井、こんな状況で手番を渡して大丈夫なのか? 森内も「危ないけどなあ」とつぶやいた。
ところが調べてみると、攻防手などがあり、藤井玉への詰めろは続かない。永瀬は藤井が読み切ったことを肌で感じたのだろう。持ち時間を使い切り、指したのは金のタダ捨て! 藤井が読んでいない手を、逆転につながるような手を懸命に探していたのだ。こういう手をAIに評価させても意味はない。しかし、時間を5分残していることもあり、藤井は冷静だった。攻防の飛車を打ち、必至をかけ、角のタダ捨ても冷静に逃げた。
20時30分、124手で藤井が開幕局を制した。