元社員・山形さんが騙されて入社に至った経緯
今年春、九州地方の某所にある山形さんの住まいを訪ねた私は、ワールド時代の話を聞かせてもらうことができた。
「私がワールドに入ったのは84年です。正確には騙されて入れられたのですが、入ってからは、武田と野間(ともに仮名)という男たちと一緒に本社ビルの裏にある小屋(※生け捕り部屋)で雑魚寝をしていました。ワールドには他にも、松永と一緒に会社を始めた坂田(仮名)という男がいました」
山形さんによれば、すべてのきっかけは、大学の同級生であるという野間さんからの電話だったという。
「大学を卒業して測量会社の社員をしていた私のもとに、同じ××工業大学の卒業生だということで、野間から布団のセールスの電話があったんですね。そこで、売れなくて困っていると泣きつかれた。契約用の名義を貸してくれとか、自分が払うからとか言うから、面識はなかったんですけど、同級生やったから、自分にできることはしてやろうと思って、布団を買うことにして、名義も貸したんです。
自分で買った布団については、30万円くらいのローンを分割で支払っていたんですけど、月の支払いが難しくなって、先方に電話をしようと思っていたら、向こうから電話がかかってきました。そこで、『名義貸しが信販会社にバレた』、と。それがワールドで働くことになったきっかけです」
親切心でやったことが自分の首を絞めたことについて、山形さんは「世間知らずやったんですよね」と反省の弁を口にする。この段階で山形さんは松永とは会っていないが、後日、柳川市にあるワールドに顔を出すことを約束させられた。
「たしかそこで出てきたのは坂田だったと思うんですが、『信販会社にバレたことで、うちの会社が契約停止になるかもしれない。だから損になった分を働いて返してくれ』、と。具体的な金額は出なかったのですが、『そうでないと、親のところに行って、違約金を払ってもらうことになる』と言われました」
その結果、山形さんは勤務先を辞め、ワールドの社員になったのである。坂田さんから「寮は用意する」と説明され、当時ワールドが借りていたO町にあるアパートの住所に、住民票を移すことになったが、実際に住むことになったのは、“生け捕り部屋”だった。
「事務所を兼用している板張りの部屋に3人で雑魚寝です。そこでは松永が起きる前に起きて掃除、洗濯。まあふつうの住み込みの生活ですね。当時、松永は我々の寝泊まりする小屋の前に建っていた自宅で、奥さんらと住んでいました。まず8時過ぎくらいに坂田が出勤してくる。松永が我々のいる事務所に顔を出すのは9時か10時頃でした」