学校の同窓会名簿をもとに電話で布団のセールス
私は山形さんに、どのような業務内容だったか尋ねた。
「松永が支払いとかあって銀行やらを回りよったので、そういうところへ車を運転して連れて行くとか……。外に出るときはスーツを着ました。ただ、事務所内にいるときはスウェットとかです」
事務所では、自分の卒業した学校の同窓会名簿をもとに、布団の営業の電話をかけさせられていた。
「私は営業の電話をかけても全然ダメでした。武田と野間は電話が上手でしたね。ただ、途中からは、武田も営業する相手が尽きてしまったみたいでしたけど……」
そこで私は聞く。
「毎日の食事とかはどうしていました?」
「まあ、普通に日に3回ということはないです。昼は自分たちで作ったりとか、夜は松永のところの残りを持ってきたりとか……」
「給料は出ました?」
「事務の書類上、給料が出とるようにはしていましたけど、実際には出てないです。松永のお父さんが金貸しをやりよることにして、そこに給料の全額を入れて、毎月借りた金を返すというようなかたちをとっていました」
「でもそれじゃあ、現金のない生活をしていたんですか?」
「うーん、そこは、ちょこちょこっとした小銭は、たとえば営業とか布団を売りに行って、買うてくれた人間からタバコを貰うとか、コーヒー代の小銭を貰うとかで、なんぼかは持っておったですね」
「どれくらいの期間、働かないと損失を返せないと言われていたんですか?」
「いやいや、それはわからんかったですね。いつになったら年季明けというんは、わからんかったです」
山形さん以外の同居する2人も、同じような状況だったという。
「松永に念書は書かされていました。『事実関係証明書』というのを書かされましたから。これこれこういう悪さをして、こういうことになったから、ここで働いて返しますということを書きました。で、それを公証人役場に持って行って、判子を押してもらって……」
このような経緯で入社したワールド社内には、暴力が蔓延していたという。