実際に弁護を担当したのは、大貫大八・正一弁護士の親子。のちに父親の大八さんが死去し、正一さんがひとりで担当した。
ちなみに大貫弁護士はAの印象について、
「暗いところがないんだよね。はっきり喋って、素直な女性という印象でした。あと記憶力が抜群に良かった」
と私の取材で語っている。ドラマでも美位子はとても殺人事件を起こしたとは思えない明るさで、これは実際に寄せているのかもしれない。
刑法200条は「親を殺すと無期懲役か死刑」になる尊属殺人規定
弁護士方針の最大の焦点は、弁護士のよね(土居志央梨)がいうように「刑法200条を憲法14条違反で訴える」ことにある。
Aは普通殺人の刑法199条と、尊属殺人の同200条で訴えられている。200条の刑は「無期懲役または死刑」となっていた(199条では当時「死刑または無期懲役もしくは3年以上の懲役」)。200条で有罪となった場合、Aの立場に同情して刑を酌量減軽しても、執行猶予がつかない。そのまま刑務所送りである。
それは酷ではないか、というのがまず素朴な感情だろう。もちろん人を殺した罪は消えないが、子どもまでできてしまうほどの長い性的虐待を受けていた被害者の面もある。
そこで弁護側の方針は、刑法200条を憲法14条違反として無効にして、刑法199条のみによる判決を仰ぐ、ということだ。
【憲法14条1項】
《すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない》
山田轟事務所の壁に大書されている視聴者にお馴染みの文言である。14条は「平等原則」と呼ばれる。人の命はみな平等なのに、「普通殺」「尊属殺」で刑罰の重さを変えていることはその原則に反する、というのが弁護側の論理である。
尊属殺人規定は「法の下の平等」を宣言する憲法14条と矛盾
憲法違反とはどういうことか。
憲法は日本の最高法規であり、法律その他が憲法に違反する場合は効力を持たない(憲法第98条)。法律が憲法に違反しているかどうか、裁判所は審査する違憲立法審査権を有している(同81条)。弁護側が考えた理路はこうである。