父親を殺した美位子は、刑法199条、同200条で起訴されている→しかし同200条は憲法14条に違反し、無効である→無効になった法律で裁けないから、刑法199条のみでの判断になる→情状酌量による減軽で執行猶予付きの判決がでる。
そもそも刑法200条は日本国憲法下で存在しているのがおかしい法律だったと思う。旧憲法から基本的人権の尊重をうたう現在の憲法に変わったとき、民法が改正され、家父長制を前提とする「家制度」は廃止されている。ところがなぜか刑法200条は生き残ってしまった。
そればかりか、新憲法下で行われた1950(昭和25)年の最高裁判決で合憲判決が下されている。ドラマでも寅子の恩師である穂高重親判事(小林薫)が違憲論を主張したシーンがあった。
憲法訴訟とは、個人が国相手にいくさを仕掛けられる唯一の手段
大貫弁護士の手記に寄ればそれ以降、全国の地裁で年平均34件の合憲判決が積み上がっていたという。しかも当時、最高裁で違憲無効と判断された法律は一本もなかった。山田轟法律事務所はそのような状況の中での戦いなのである。壁に憲法14条を大書した事務所としての存在意義を懸けた挑戦だ。私は憲法訴訟とは、追い詰められた個人が国相手に大いくさを仕掛けられる唯一の手段であると思う。
一審判決が刑法200条は違憲無効、過剰防衛により刑の執行を免除する判決。二審の東京高裁では逆に刑法200条は合憲、懲役3年6月の実刑判決という逆転有罪の判決が出た。そして最高裁へ、という流れである。
岡田将生演じる航一のように、被告に心を寄せた調査官はいた
第25週では、最高裁調査官である航一(岡田将生)が最高裁長官である桂場等一郎(松山ケンイチ)に尊属殺事件を受理するよう説得する。実際に調査官と長官の間でそのようなやりとりがあったのか私の取材ではわからない。だが、実際に被告(A)の境遇に心を寄せた調査官はいたようである。
「ふつうなら(調査官による)形式的に1回ぐらいしか聞き取りしないのに、何回か話を聞いてくれました。その聞き方も非常に親切でね、あ、これは(合憲から違憲へ)判例を変更するかもしれないと目の前が明るくなるような気持ちでした」(大貫弁護士)