今月19日、マイアミで行われたマーリンズ戦で、メジャー史上初の「50本塁打、50盗塁」を成し遂げたドジャースの大谷翔平(30)。20日には「52本塁打、52盗塁」を達成し、更なる記録更新が期待される。
ここでは、前人未到の活躍を見せる大谷と一対一で向き合い、その素顔に迫ったベースボールジャーナリスト・石田雄太氏の新著『野球翔年II MLB編2018-2024 大谷翔平 ロングインタビュー』(文藝春秋)より一部を抜粋して再公開。2023年のWBC優勝後、大谷と栗山英樹監督はどんな言葉を交わしていたのか——。(全2回の2回目/1回目から続く)
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「僕がやりますから、心配しないで下さい」
アメリカとの決勝戦。
球場に着いた栗山は、まずチームの練習から離れてベンチ裏へ出た。そこからレフトの奥にあるブルペンまで、グラウンドへ出ることなく行けるものなのかを確かめようとしたのだ。DHの大谷がリリーフで登板するためには、打席が回らないタイミングでピッチャーの準備をしなければならない。
ブルペンがベンチ裏にあれば問題ないのだが、レフトにあるとなれば、どのタイミングで、どうやって移動するのかが問題となる。だからまず、栗山はその動線を自分の足で確認したかったのである。
実際にベンチ裏から通路を歩くと、途中に係員がいてその先へ進めないところもあった。理由を説明してさらに進み、レフトのブルペンを目指す。しかし、最後のところではどうしても観客の前を10mほど歩かなければならない。
ただ、そうすれば裏の入り口からブルペンへ入れることがわかった。それを確かめると、グラウンドへ出た栗山は外野で球拾いをしながら、大谷のキャッチボールを観察していた。
「この感じなら大丈夫だなと思った。この2年で急成長した翔平の進化のスピードはオレの思っていたよりもかけ算、かけ算で倍増してる。身体の強さは練習を見ているだけで十分、感じられたからね」
栗山は覚悟を決めて、ベンチの裏で大谷を待った。投打の両方で出場するときはやることが多すぎて大谷の歩みを止めることは難しい。それを百も承知の指揮官は、準決勝の試合前に呼び止めることも考えた。