2008年(131分)/松竹/4180円(税込)

 来たる十月一日、拙著新刊『ヒット映画の裏に職人あり!』が小学館新書から刊行されることになった。

 これは、近年のヒット映画や話題作、大河ドラマなどで重要な役割を果たすスタッフ十二名へのインタビュー集。その仕事内容に関して、一人ずつ詳細にうかがっている。

 正直なところ、新作の邦画に関しては監督・脚本家・俳優、いずれもほとんど興味が湧かないできた。が、作品そのものに関心が行かなくとも、「あ、この人は凄い仕事をしているな」「この人の仕事があるから、この作品は成功したといえる」と感心できるスタッフの技に目が行くことが多々あったのだ。

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 そうした人たちのお話をうかがって気づいたのは、現場の最前線で戦う人たちの魂は昔も今も変わらないということだった。作品の成功のため、目いっぱいの創意工夫を込めているのである。

 特殊メイクアップアーティストの江川悦子氏もその一人。アメリカで第一人者のリック・ベイカーに学んだ名工だ。

 特殊メイクというとモンスター的な造形をするイメージもあるだろうが、この人はリアルも強い。たとえば大河ドラマ『麒麟がくる』。本木雅弘の演じる斎藤道三が本当に頭を坊主にしたと思っていたのだが、これが実は江川による特殊メイクだったのだ。

 今回取り上げる『おくりびと』もまた、本物と見紛うメイクをしてのける江川の技術が活きた作品だった。

 本作の題材は納棺師。遺体を棺に納め、火葬まで見栄えよく処置・保存する仕事だ。本木と山﨑努の演じる納棺師たちは劇中では多くの遺体と対面することになる。

 この遺体の表現が難しい。実際の俳優が演じるとなると、長回しのシーンではどうしても微かな肌の動きや呼吸が映ってしまう。筆などで顔に化粧をほどこすので、動きを完全に止め続けるのは不可能だ。そのためダミー人形を使うのだが、これが人形に見えたら全てが台無しになる。

 そこで江川は肌の素材、血色の塗料、毛髪や髭の一本一本――と徹底してこだわり抜いた。そして、本物にしか見えない遺体のダミー人形を創作したのである。取材時に本作で使われた遺体のダミーを見せてもらったのだが、実際にそこに本人が横たわっているようにしか思えない生々しさがあった。

 そうして丹念に遺体のダミーを作る江川と、遺体に真摯に向き合い続ける本作の主人公たちはどこか重なるものがある。だからこそ、遺体の一つ一つが尊く輝いて映し出されているのではないかと思えた。

 今度の本では、そんな技の数々を知ることができる。