1960年(94分)/東宝/2750円(税込)

 一九七七年生まれの身からすると、たいていの旧作邦画は「生まれる前の作品」になる。そのため、大なり小なりの情報が入った上で「これはこんな映画なんだろうな――」という心構えをしてから鑑賞に臨むことになる。

 ただそれでも、事前の情報は全く入っていないし、タイトルとキャスティングからの推測も難しく、なんなら観始めてからですら、「これはいったい、どういう映画なんだろう」と全てが謎のまま進んでいく映画もある。その迷子になったような迷宮的スリリングさがたまらない。今回取り上げる『大学の山賊たち』は、まさにそんな作品だった。

 かつて浅草東宝で土曜日に開催されていたオールナイト上映での山﨑努特集か岡本喜八特集のどちらかで観たのが初見だったのだが、「え? この映画、どうなるの?」の連続だったことは確かだ。

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 主演は山﨑で、その周りを佐藤允、久保明、江原達怡、ミッキー・カーチスといった岡本喜八組で常連の男優陣が固める。加えて、同じく喜八組のお馴染みの中丸忠雄、平田昭彦、さらに上原謙に越路吹雪に鶴田浩二も登場する豪華キャスト。雪山を舞台に、二転三転の物語が展開される。

 序盤は冬季の北アルプスを登山する若者たちの姿が描かれるのだが、喜八組の面々はもちろん、山﨑すらそのキャリアで見せたことがないような朗らかな笑顔を浮かべる。ここだけなら爽やかな青春映画と思ってしまうところだ。

 彼らは山中でピクニック気分の無謀なデパート勤務の女性一団(白川由美、横山道代ら)と出会い、共に下山するうちに吹雪で遭難。さらに単独行で行き倒れのデパート社長(上原)を救助した上で山小屋に避難する。これは遭難パニック映画なのか――となるが、それも違う。

 山小屋は気品があるが謎めいたマダム(越路)が一人で運営していて、彼女以外には見えない「主人」に話しかけている。その小屋の主人は既に亡くなっていた。実はホラー映画なのかと思いきや、社長と主人が瓜二つなど、コミカルな展開が続く。そして男女はこの山小屋を拠点に山スキーを楽しんでおり、ラブコメ映画の様相を見せてくる。

 これが中盤、さらに一転。某国皇太子を騙るギャング(中丸ら)が小屋を占拠、加えて食糧難を打破するために山﨑が雪の中を難所踏破に挑む――というサスペンスフルな展開が待ち受ける。

 観る側の心構えをことごとくひっくり返す目まぐるしさで、「これがどんな映画なのか」とは表現し難い。あえて言えば「とんでもなく面白い映画」。全く先の見えない迷宮に、浸ってほしい。