戦後の日活映画といえば、無国籍アクションや青春映画のイメージが強い。が、その一方で、地味な小作品ながらも切れ味の良いサスペンス映画も、多く作られてきた。
近年ではDIGレーベルがそうした作品を掘り起こしており、今回取り上げる『殺人者(ころし)を追え』も、そんな一本だ。
強盗殺人事件の犯人を追う二人の刑事、数馬(小高雄二)と宮下(織田政雄)が主人公。犯人の情婦が暮らす巨大団地の一室で二人が張り込むところから、物語は始まる。一方、同じ団地ではヤクザ者と思しき三人組がサラリーマン一家の部屋を占拠していた。彼らもまた、犯人がやってくるのを待っていたのだ。
なかなか現れない犯人に、刑事たちもヤクザたちも焦燥感を募らせていく。ギラギラした太陽が汗ばむ顔面を照らして輝く――といった、冷房のない時代ならではの、観るからに蒸し暑さが伝わる映像が、刑事たちのいら立つ心情を浮き彫りにしていた。
刑事、ヤクザ、サラリーマン一家、情婦、その情婦の隣室に暮らす幼稚園の先生。団地の一郭を舞台にした群像劇として物語は展開していく。
自身の失態によって金を奪われてしまったために、ひたすらピリピリし続ける若い数馬と、いつも飄々として冷静沈着に諭すベテランの宮下。刑事モノでは典型的なコンビともいえるが、宮下を演じる織田がとにかく見事なのだ。蚊取り線香に火をつけたり、髭を剃ったり。日常描写における、ちょっとした何気ない仕草や表情が朴訥としていて、実直な叩き上げ刑事のリアリティを醸し出している。
そのため、緊迫した展開の中で時おり挟まる宮下の人生訓が、抜群の説得力とともに厭味なく入ってくることに。「人間って奴は、肌をすり合わすだけの温かさでもないと生きていけないもんさ」「平凡な人間が罪を犯す。だから怖いのさ」――一つ間違うと説教臭くなりかねないセリフも、温かみある訥々とした織田の言い回しによって情感豊かな名ゼリフに聞こえてくる。
その一方で「つまらん感傷と仕事とは別だからね」とクールに言い放って情婦の尾行を粛々と続けるなど、仕事モードに入った時に急に頼もしくなるのも実に魅力的だ。
そして、終盤になってからは一転して怒濤のアクションが待ち受ける。ヤクザたちによる、幼稚園の送迎バスのジャック。バスに飛び乗る数馬と振り落そうとするヤクザによる大格闘にカーチェイス、そして最後は泥まみれの肉弾戦――と、ド迫力の映像が繰り広げられるのだ。
これだけ詰まっているのに、上映時間はわずか七十一分というのに驚かされる。