1972年(94分)/東宝/2750円(税込)

 前回の『死ぬにはまだ早い』など、西村潔監督の作品は何度も本連載で扱ってきた。

 その際、西村監督を「ハードボイルドの名手」という言い方をしてきたが、その志向は、スピーディで切れ味の鋭い、ハリウッド映画的なハードボイルドさではない。けだるく、アンニュイな、どちらかといえばヨーロッパ映画的なハードボイルドといえる。

 そのため、観ている間にはジメジメと重苦しい感があるし、観終えてもどこかスカッとしきれない余韻がある。この、独特のモヤモヤ感が後を引き、西村作品の世界に対する中毒性をもたらしてくる。

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 今回取り上げる『薔薇の標的』も、そんな一本だ。

 加山雄三がスナイパー役を演じるのは、これが四本目。堀川弘通『狙撃』、森谷司郎『弾痕』と、最初の二作は両名とも黒澤明門下生の監督だけあり、切れ味鋭いアクションで盛り上げていた。三本目の『豹(ジャガー)は走った』は西村が監督しているが、田宮二郎とのスター同士の対決により、緊迫したサスペンス性に貫かれる。

 それに対する本作は過去三作とは大きく異なる。

 まず冒頭のタイトルバックから、そうだ。花々の絵画が次々に映し出され、ヴィヴァルディの悲しげな管弦楽曲が流れる――と、実にリリカル。

 主人公の日野昭(加山雄三)はオリンピックに出場するほどの銃の腕前だったが、暴発によりライバルを死なせてしまい、殺人罪に問われ社会的に抹殺されていた。そんな日野を謎の紳士・立花(岡田英次)は暗殺者としてスカウト。日野は銃を撃つ魔性に抗うことができずに立花の誘いに乗った。訓練を受け、命じられるがまま暗殺に勤しむ。

 といっても、大半はBGMもなく淡々と進み、なかなかスリリングな展開にならない。原一民による撮影は、所々に草花をあしらった構図やソフトフォーカスを多用。その淡い描線で切り取られたショットの数々により、暗殺訓練、射殺、監禁といった殺伐とした場面も、むしろ詩的でロマンチックに見えるほどだ。

 それに加えて、加山雄三の異様に太いモミアゲ、岡田英次のいかがわしいまでのバタ臭さ、その部下を演じるトビー門口の寡黙なダンディさ、そして彼らに絡んでくるヒロイン(チェン・チェン)の可憐さ――。欧風の雰囲気に徹したかのような俳優陣が、そんなリリカルな映像や管弦楽の哀切なメロディと絡み合い、日本とは思えないエキゾチックさを醸し出している。

 終盤のカーチェイスや銃撃戦も、バイオリンの調べや鳥の鳴き声をバックに展開。美しくも悲しい作品世界を終始徹底させた中に、アウトローたちの生き様を切り取った。