2001年(88分)/日活/5280円(税込)

 真田広之がエミー賞を受賞した。プロデューサーでもある真田は、自身が育った京都から時代劇のスタッフを招いている。それだけ真田は京都の時代劇スタッフたちの力を信頼しているし、またスタッフたちも真田に惚れ込んでいるということだ。実際、真田と仕事をしたことのある京都のベテランスタッフたちと話をすると、「ヒロユキはなあ――」と、誰もが目を細めながら嬉しそうに真田との思い出話を語る。両者の絆は強い。

 真田は若い頃から京都の現場で名匠、名工、名優たちから時代劇の何たるかを学び、時代劇俳優としての表現力を身につけた。いわば、時代劇百年の蓄積がその肉体には刻み込まれているということだ。つまり今回の受賞は、真田を介して日本の時代劇表現がハリウッドにその力を証明してのけたと言うことができる。

 そこで今回は『助太刀屋助六』を取り上げる。真田の時代劇役者として円熟期の一本で、岡本喜八監督の遺作だ。仇討ちの助太刀を生業とする若者・助六の活躍を描いた作品で、真田が助六を演じた。

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 さまざまな仇討ちに助六が助太刀して戦う場面が連続するのだが、長い棒を振り回し、縄を投げ、そして跳んで走って――と、これぞ真田広之という躍動感あるアクションが冒頭から連続する。

 特に目を見張るのは、助六が一人で助太刀の稽古をする場面。ただ刀を振るだけでなく、そこにある台や荷車なども駆使したアクロバティックな動きになっているのだが、これがド迫力。相手はいないにもかかわらず、激闘を繰り広げているように見えてくる。

「名レスラーはホウキ相手でも名勝負をする」というプロレスの格言があるが、真田なら相手がいなくとも手に汗握る決闘を表現できるのだ。たとえば晩年の天本英世が相手の場面も、真田がその周囲を激しく動き回ることで、天本がアクションをしているように思わせている。

 それは本作だけではない。真田は自分を良く見せるためだけではなく、全体の完成度を高めるために自身の技術を使ってきた。その精神はアメリカでも揺るがない。真田自身が「助太刀屋」なのだ。

 翌年公開の『ラストサムライ』への出演を契機に、真田はハリウッドに主戦場を移す。詳しくは拙著最新刊『ヒット映画の裏に職人あり!』(小学館新書)に掲載されているが、キャスティング・ディレクターを担当した奈良橋陽子によれば『ラスト~』でも真田は陰で現場に貢献していた。

 そこから今日まで約二十年。長い年月の末に、「時代劇ここにあり」を世界に示してくれた。その信念に、心よりの感謝と敬意を表したい。