1979年(138分)/KADOKAWA/1980円(税込)

 普段は何気なく楽しんでいる映画や大河ドラマなどの合戦シーンだが、よく考えると尋常でない撮影をしている。

 人だけでなく、大量の馬が一か所に集まり、それらが演出サイドの意のままに動くのだ。しかも合戦だから、馬上に向かって足軽が槍で突いてきたり、馬上の武将たちが刀を振り回したりする。その上、それが何十頭も行き交う。馬からしても、それは恐怖を抱きかねない状況といえる。

 そのため、「馬術指導」としてクレジットされるスタッフは、人間が馬を乗りこなせるように指導するだけでなく――いやそれ以上に――馬を撮影に対応できるように育てていく役割を担っているのだ。

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 先日、日本の第一人者である田中光法に取材させていただいたのだが、選定した馬が撮影で役者を乗せられるようになるまで、二年はかかるという。そうして育った馬は「役馬」と呼ばれる。役馬もカメラ前でアクションをする、プロフェッショナルなのである。

 今回取り上げる『戦国自衛隊』は、役者と役馬、双方の高い技術を堪能できる一本だ。

 現代の自衛隊が演習中に戦国時代にタイムスリップ。隊長の伊庭(千葉真一)は長尾景虎(夏八木勲)と意気投合し、自衛隊の近代兵器をもって景虎と共に戦うことに。

 本作のクライマックスは、自衛隊と武田騎馬隊との壮大な合戦シーンだ。これを存分に撮るため、千葉はアメリカから西部劇用の馬「クオーターホース」を大量に輸入。自ら率いるJACの面々とともに訓練を重ね、空前絶後の馬術アクションを繰り広げた。

 騎乗のまま身体を傾けて、地面に刺さった矢と弓を拾い上げる千葉。馬の脇腹に身を隠しながら追うJAC勢。そして馬上から立ち上がって飛び降り、そのまま斬りかかる真田広之。しかも、これらを全て、馬が全力で疾走する状態でやってのけている。

 こうした超人的なアクションを次々とこなしていくJAC勢の身体能力に目を奪われてしまうが、彼らの無茶な動きに対して馬たちがしっかりと合わせているからこそ成し遂げられたことでもある。ここで馬が驚いて暴れたり止まってしまったり、動きに対応できずに倒れたりしたら、NGどころではない大事故だ。

 そして、西部劇用の馬だからといって、すぐに対応できるわけではない。これだけの数の馬が集まって、ここまでのアクションをする撮影は、アメリカでもあり得ないからだ。そこまで育て、馬との信頼関係を築いていった馬術スタッフと俳優たち、そして何より、馬たちの努力の賜物なのだ。

 そうした「馬たちのアクション」に着目しながら合戦シーンを観てみるのも、面白い。

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