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「細やかな情感に心を惹かれたのだ」安藤が瑳峨に惚れたワケ

 そもそも安藤は、瑳峨の姿、形に惚れたわけではない。女優としての芸の深さと、女としての細やかな情感に心を惹かれたのだという。安藤がタバコを吸いたいなぁと思うと、その瞬間にスッとタバコを出してくれる。

 そんな男女の心の通い合い、つまり自分のことよりも、いつも相手に気を遣っている瑳峨の姿に打たれたのである。女心の優しさに男が応えるとしたら、それに倍する優しさでいたわるしかない。損得なんて、考えるべきじゃない。それが安藤昇の生き方であった。

 瑳峨の肉体的な回復が伝えられたのは、昭和43年初夏。体重も増えた。なによりも、薬との絶縁が効果があったとも噂された。

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 安藤の篤い介護のおかげで、瑳峨は肉体的には立ち直りつつあった。そこで、安藤は、もう一度、女優として立ち直ってほしいと願った。

『週刊ポスト』昭和45年7月17日号で安藤は、その気持ちを率直に語っている。

《口はばったいようだが、自分が手がけた作品を最後まで完成しよう、そんな気持ちでしたよ。そんなぼくの気持ちに、彼女も実によくこたえてくれたと思う。いろいろ巷間で噂される女ほど、実はそうではない、いい人間が多いんだ。彼女は典型的なそんなタイプの女ですよ。経済的にだって、ルーズなでたらめな女じゃない。もし芸能界に入らず、からだも健康だったら、いい結婚をして、幸せな妻の座をつかんだ女だと思う。この3年半、ボクたちには将来を思うような余裕はなかったんですよ。必死に病魔と闘った彼女に、ボクは男の意地をかけてきた。意地で彼女の再起を手つだってきたんだ。それを愛と世間でいってくれるのなら、それもいい。しょせん、男の愛って、男の意地じゃないですか》

 瑳峨の再起は、安藤の意地であった。

大宅壮一と対談したときの安藤昇(左) ©文藝春秋

京都の芸者とも関係を持っていた安藤

 が、そのような2人にも破局がやってきた。当時、安藤は、京都祇園の芸妓「愛みつ」こと中村文柄とも関係を持っていた。

 愛みつは、かつて歌舞伎役者・尾上菊之助(のち7代目尾上菊五郎)の恋人ともいわれた美貌の芸者であった。

 安藤は、東映の京都撮影所での撮影が終わると、とあるバーにマネージャーと通うようになった。それは、愛みつの妹が経営するバーであった。そこに姉である愛みつが、ふらりとやって来て、安藤にひと目惚れしてしまう。