昭和のヤクザ史に名を刻んだ“カリスマヤクザ”安藤昇。「安藤組」を立ち上げて昭和の裏社会と表社会を自由に行き来し、数々の伝説を残した。安藤組解散後は俳優に転身し、映画スターとして活躍。そんな安藤昇の一生を記した作家・大下英治氏の著書『安藤昇 侠気と弾丸の全生涯』(宝島SUGOI文庫)より一部を抜粋し、伝説のプロレスラー・力道山と安藤組が対立した経緯を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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安藤組の大幹部らが喫茶店を占領
『純情』の開店は1時からであった。昼は喫茶店で、夕方の6時からバーに切り替えられる。
店が開くと、花田瑛一や大塚稔(ともに安藤組の大幹部)ら50人が真っ先にどっとなだれこんだ。50人が、別々のテーブルに座った。
そろってコーヒーを1杯注文した。コーヒー1杯だと、100円でおつりがくる。そこに、一般の客が入ってきた。が、50席占領されているので、座る席がない。ウェイトレスが、安藤組の引き連れて入った客に訊いた。
「あのォ、相席よろしいでしょうか」
「駄目だ。あとから、相棒が来ることになっている」
そのうち、レスリングのレフェリーをしている安倍治がフロアに顔を出した。
大塚は、髭をはやした安倍の顔をよく知っていた。『パール』というナイトクラブに出入りしていて、そこで大塚とよく顔を合わせていた。
フロアに姿を現わした力道山
安倍は、大塚の顔を見ると、大塚らの動きを察したらしく、すぐに引っこんだ。しばらくして、力道山が、フロアに姿を現わした。安倍といっしょである。大塚が、突然号令をかけた。
「うちの生徒全員、起立!」
50人が、そろって起立した。
大塚は、さらに大声を張りあげた。
「力道山に敬意を表して、礼!」
50人全員が、力道山に礼をした。
「着席!」
50人が着席した。
力道山は、いったん引き下がった。
が、安倍が大塚の席に使いとしてやって来た。
「力さんが、号令をかけた人に来てくれって言っている」
大塚は、啖呵(たんか)を切った。
「何も、おれが行く必要はない。話があるなら、向こうが来ればいいだろう」
安倍は、また引っこんだ。