「緩和ケア」は死を待つ場所ではない
──緩和ケアについても教えてください。緩和ケアはいつから考えればよいのでしょうか。
森山 緩和ケアは、将来苦痛が出そうな状況が見えてきた段階で考えるのがいいと思います。緩和ケアを終末医療と間違えている人も多いですが、緩和ケアは終末期か否かにかかわらず、がんに伴う体と心の痛みやつらさを和らげ、「自分らしく生きる」ためのものです。緩和ケアに行けと言われると「見捨てられた」と思う方がいらっしゃいますが、緩和ケアというのは死を待つ場所ではなく、今やりたいことをできるだけ長く続けるための場所だということを知ってほしいですね。
──いよいよ苦しくなってから「明日入れてください」と利用する場所ではないということですね。
森山 そうですね。緩和ケアの医師は、痛みを取り除き、「その人らしい人生」を少しでも長く過ごせることを専門に行っています。外科医は「点」で短期間の患者さんを診ていますから、本来であれば、がんと診断された時から緩和ケア病棟に登録をして、医師と連絡をとりながら、治療を進めていくのがいいんです。私が以前国立がん研究センターにいた頃は、緩和ケア病棟で骨転移のある患者さんがゴルフに行くのをサポートしたり、患者さんの碁の相手を務めたりすることもありました。今までやってきたことが続けてでき、新しいことにも挑戦できる場所。それが緩和ケア病棟です。
──頑張りきれなかったら、どうすればいいでしょうか。
森山 頑張ろうとすることが大事なので、頑張りきれなくてもいいんです。「200歳まで元気で生きよう」っていくら頑張っても、本当に200歳まで生きられる人はいないでしょ(笑)。あと、日本人は「我慢や忍耐は美徳」と思っている人が多いように思いますが、我慢する必要もありません。前向きながん患者さんは、できなくなっていくことを数えるのではなく、「まだ何ができる」と、「今できること」をいつも考えています。
「今は何ができる」といつも考えられるようになれば、自分らしく生き抜くことができ、そんなに不幸にはならないと私は思っています。
最後まで自分にできることを諦めない。それが人間の喜びであり、幸せなのではないでしょうか。
写真=末永裕樹/文藝春秋
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