良い記事とは「棋士の人柄や関係性を伝えられるもの」
――瀬戸さんは、良い記事だったと思えるものは何ですか?
瀬戸 『盤記者!』の篠崎記者は盤上のことも取材されていますが、私、インタビューで盤上のことをたぶん一手も聞いたことがないんです。私はまだそこまで行き着けてないのですが、今は、読者にその人のことを好きになってもらえたらという気持ちで書いています。その意味では、さっき挙げた中村太地先生の記事は、棋士の葛藤が書けていると反響をいただきました。
――良い記事だったなと。
瀬戸 はい。あと山崎先生(隆之八段)と、弟子の磯谷さん(祐維女流初段)の記事(金髪の女流棋士・磯谷祐維女流初段「私には将棋しかない」 プロ入り4か月で初優勝 新風吹き込む21歳/金髪の女流棋士を弟子に持つ師匠の話 山崎隆之八段の後悔と祈り)があります。記事の中に「私には将棋しかないって」という師弟共通の思いが出てきますが、お二人で少しニュアンスがちがっていて。磯谷さんの「将棋しかない」は「自分という存在を将棋を通じてじゃないと認めてもらえない」という意味で、山崎先生の「将棋しかない」は、「将棋があったら他はすべてなくていい」という意味なんです。
この師弟による感覚の差もあって、磯谷さんは一度、奨励会を退会し、師弟関係を終えていた時代があるんですよ。この話を、まず磯谷さんから聞いて、次に山崎先生から聞いて、それが対になって、二人の人柄や関係性を伝えることができた。読者の方から、お二人とも好きになったという感想をもらったので、良い記事だったかなって。
――そういった声をもらえるのは嬉しいですね。記者の方は、普段、どのように記事の手応えを感じるものですか?
世古 私の場合は、本音のことばを引き出せたときですね。王位戦の事前企画のとき、豊島先生が「若くて強い藤井さんだから差がついたと思っていた。でも自分が弱くなっているのではないか」みたいな話をされたことがありました。今まで聞いたことがないことばで、こういうのを聞けたときは手応えを感じます。
瀬戸 あとは、将棋を知らない人が、ひとりでも興味をもってもらえるものが書けたらなって思っています。最近、山本先生(博志五段)と谷合先生(廣紀四段)が「銀沙飛燕」というお笑いコンビを作られたんですが、その取材記事(将棋界からM-1挑戦!谷合廣紀四段&山本博志五段がお笑いコンビ「銀沙飛燕」結成)がヤフトピにも取り上げられ広く読んでもらえました。そんなとき、こういった話題からひとりでも将棋に興味をもってもらえたらと思います。