女性将棋記者を主人公にしたマンガ『盤記者!』(「文春将棋」にて不定期連載)の電子書籍のコミックス発売を記念した、『中日新聞』の世古紘子記者と『スポーツ報知』の瀬戸花音記者による女性将棋記者対談の後編。
本稿ではまず「思い入れのある棋士」について聞くと、瀬戸記者は、すごく苦しかったというエピソードから、二人の棋士の名前を挙げてくれた。
それぞれの「思い入れのある棋士」は
瀬戸 報知新聞社が主催する岡田美術館杯女流名人戦を初めて取材したのは、2022年、伊藤沙恵さんが念願の初タイトルを取られたときでした。ただ私は、就位式のインタビューからで、番勝負の取材は前任の北野さんがされていたんですよ。そのとき、すごく申し訳なさみたいなのを感じて。
現場取材をしてるわけでもないのに、初めましてみたいな人が現れてインタビューしなきゃいけないのが、自分の中に違和感として残って。それで、その翌年の女流名人戦は、そんな気持ちにならないようがっつり取材をしようと思ったんです。
――翌年は、伊藤沙恵女流名人に西山朋佳さんが挑戦しましたね。
瀬戸 はい。第1局、第2局は西山さんが勝ち、第3局は伊藤さんが勝利されました。その第3局の終局後、対局室で代表質問をしなきゃいけないんですけど、その部屋の雰囲気がすごく苦しかったんですよ。どういうトーンで質問すればいいのか悩んでいたら、後日、西山さんから「あのとき泣きそうになってましたよね」って言われました。
――その泣きそうになった気持ちって何ですかね。
瀬戸 お二人に対してすごく思い入れをもってしまったゆえですかね。記者だったらもっと冷静になるべきでしょうけれども、それが無理でした。ただ、このときのご縁で伊藤さんと西山さんにはよくしてもらっていて、普通におしゃべりしたり、遊びに誘ってもらったりしています。こういった関係を築けたのは、自分が女性だからかなとも思います。
――世古さんは、思い入れのある棋士というとどなたですか?
世古 継続的に取材したという意味で、やはり豊島先生(将之九段)になりますね。あとは、連載「25階の勝負師たち」で取材をした東海地方の女流の先生でしょうか。奨励会を経て女流棋士になられた今井絢先生(女流初段)に、キャラが立っておもしろい山口仁子梨先生(女流1級)、稀良莉先生(女流1級)の姉妹。豊島先生の初弟子の岩佐美帆子先生(女流1級)。それに室田伊緒先生(女流三段)に中澤沙耶先生(女流二段)がいらっしゃるなど、バラエティに富んでおもしろい方が多いんです。女流の先生は、私にとっては娘っていうとおかしいですが、見守る母のような心境でもあり、思い入れがありますね。