女性将棋記者・篠崎龍香の成長を描いた松本渚さんのマンガ『盤記者!』(「文春将棋」にて不定期連載)がこのたび完結し、コミックスが電子書籍にて発売されることになった。

 これを記念して、『中日新聞』の世古紘子記者と『スポーツ報知』の瀬戸花音記者のお二人に対談をお願いした。女性記者にとって将棋界とはどのような場所と映るのだろうか。またその魅力はどこにあるのだろう。マンガ『盤記者!』は、主人公が将棋担当を命じられるところから始まるが、まずはお二人が将棋担当になった経緯から話をうかがった。

世古紘子(せこひろこ)。中日新聞記者。2006年入社。2018年から2024年の7月まで文化芸能部で将棋を担当。「30代女子の将棋ことはじめ」「25階の勝負師たち」といった将棋にまつわる連載を行う。現在は、愛知県の通信局勤務。

歓送迎会で突然の担当命令「けっこうショックでした」

――まずは世古さんからお聞きしたいのですが、2006年に中日新聞に入社。2018年から2024年の7月まで文化芸能部で将棋を担当されていますが、それまではどういった記事を書かれていたのでしょうか。

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世古 地方行政と事件、事故を取材していました。今年の8月から、またその取材に戻った感じですね。中日新聞は、中部地方を対象とした媒体なので、そのどこかで取材をすることになります。

――そこからどういった経緯で将棋担当になられたのでしょうか?

世古 もともとは「美術を担当したい」と希望を出していました。それで念願叶って文化芸能部に異動できたのですが「文芸と将棋の担当」と言われまして。今でも覚えているんですけど、歓送迎会で中華料理のコース料理を食べているときに「将棋を担当してもらいたい」って言われ、締めの坦々麺が食べられなくなりました。

――あまりのショックで?(笑)

世古 はい(笑)。作中の篠崎記者は、将棋担当を命じられたとき、驚きながらも前向きでしたけど、私はけっこうショックでした。将棋って勝負事ですし、男性社会で専門性も高いなど、私の中でマイナスの要素が多かったんですよ。「私には無理です」ってかなり言ったんですけど、部長は「できるから」って。ただ6年半やってみて、とても良かったなと今では思っています。

『盤記者!』より ©松本渚/文藝春秋

――ちなみに2018年の将棋界は、その前年に愛知県瀬戸市出身の藤井聡太七冠がデビュー29連勝を飾って「藤井ブーム」で盛り上がっていたときですね。

世古 はい。29連勝は別の部署で見ていました。まさか自分がその世界に行くとは考えてもいませんでしたね。あのブームがあったから、初心者の私にやらせてみたら面白いんじゃないかって、部長も考えたのだと思います。

――瀬戸さんは、2020年に報知新聞社に入社。2022年から『スポーツ報知』の囲碁将棋担当になっています。同紙の将棋担当といえば、現在『朝日新聞』で将棋の記事を書かれている北野新太さんが務められていましたが、これは北野さんの移籍で空いた席に就かれたわけですか?