将棋と新聞の縁は、長く深い。
娯楽の少なかった明治時代、新聞社は将棋の記事や棋譜を紙面に載せることで、部数の増加を図っていった。それ以降、将棋界と新聞社の縁は長く続き、現在も7つのタイトル戦を新聞社・通信社が主催している。
このように将棋界にとって縁の深い新聞社にて、日々掲載される将棋の記事を書くのが、各社の担当記者だ。
今回は、読売新聞社の吉田祐也記者、朝日新聞社の村瀬信也記者、そして東京新聞の樋口薫記者の3人にお集まりいただいた。文春将棋ムック「読む将棋2022」に掲載された座談会のうち、藤井聡太竜王について「記者の目」で語ったパートを抜粋して紹介する。
将棋を詳しく知らない人にも「すごさ」が伝わるよう試行錯誤しています
村瀬 将棋というものは、難しいといえば難しいですし、駒の動かし方もわからない人に伝えると考えると、どういう表現を使えばいいのだろうか。たとえば、「猛獣が獲物に襲いかかるように」と書けばいいのかなとか、自分の表現力が試されるという面もあるなと思います。そのあたりは試行錯誤ですかね。
樋口 将棋のすごさ、面白さを伝えるのは難しいなと思いますね。藤井聡太さんが連勝しているとか、最年少でタイトルを取ったというのは、すごいことですけど、我々が感じている藤井さんの一番のすごさというのは、将棋の内容にあるわけですよね。そこをどうすれば伝えられるのか。あと将棋というゲームの魅力をうまく伝えられる記事がどうすれば書けるのか。
この間、チェスをモチーフにしたドラマ『クイーンズ・ギャンビット』の原作を読んだんですけど、チェスを詳しく知らなくても面白い。とても臨場感のある文章になっているんですよね。字数に限りのある新聞の中では難しいかもしれないけれど、そういう表現ができないかなと普段から考えてはいます。
吉田 藤井竜王のすごさをどう書くかは、毎回悩みどころですね。ファン層が、将棋が強い人からライトな人まで幅が広くなったんですよ。デスクから、原稿のなかに「相掛かり」は使わないでほしい、といわれたり(笑)。そもそもターゲットをどこにするのかもあるし、毎回模索していますが、まだうまくいっていません。
村瀬 あと、どうしても同じ表現になってしまうんですよ。例えば「快挙」ということばにしても、何度も出てきたりして。
樋口 三冠、四冠ときて、今度は五冠になられましたが、短い間に快挙が続くので、すごさの表現が難しいですね。