世古 何がきっかけだったのかはわからないのですが、豊島番としていろんなタイトル戦に行くようになって、いつの間にかおもしろくなってましたね。私が担当した6年の間に、豊島先生はまず棋聖を取って、次に王位を取って二冠になる。その後名人と竜王になるも失冠も経験されて、2021年に無冠になるという大きな一連の流れをずっと取材させてもらったんですね。
――いろんな場面に立ち会うことができたと。
世古 はい。就位式で師匠からお祝いされて、豊島先生も師匠や恩師の方に御礼のことばをおっしゃっているのを聞いて。『盤記者!』のなかでも「いろんな人の期待を背負って棋士はいる」とありますけど、本当にその通りなんですよね。だから失冠したり、無冠になったりしたときは、取材するこちら側も問われるんですよ。
戴冠など喜びのときは取材も執筆もしやすいですが、負け続けているときは、本音を聞きたいけど踏み込めないとか、どこまで聞いていいかと悩みました。そういう醍醐味のある現場でしたね。一人の棋士を追って、いろんなことのあった6年間でしたから、取材のおもしろさは存分に感じました。
まわりの将棋記者の印象は…
――まわりの将棋記者の印象はいかがですか?
世古 みなさん真摯ですよね。『盤記者!』の篠崎記者も控え室で緊張していましたけど、独特の緊張感があります。ただそんなときも、朝日の北野さんとか気軽に声をかけてくださり、全国紙の記者の方に「ここどうなってるんですか?」と聞いても、優しく教えてくださる人が多い。社会部のような「抜いた、抜かれた」という感じもあまりないので、そういう意味では居心地のよい場所ですよね。
瀬戸 本当にそうですね。「抜いた、抜かれた」という記者らしい殺伐とした雰囲気はまったくなくて。東京の記者室でもかわいがってもらっています。タイトル戦で出張すると「このあと飲みにいく?」って声をかけてもらうこともあります。
世古 うちの記者も瀬戸さんが大好きで。
瀬戸 中日新聞の方にはお世話になっています(笑)。
――お二人は、一緒に取材をしたことはあるんですか?
瀬戸 タイトル戦の記者室では一緒になったことはありますね。
世古 瀬戸さんが将棋担当になったのが2022年からですよね。私は、豊島先生の担当だったので、そのあたりからタイトル戦に行く機会が減ったので、あまり会うことがなかったんですよね。話したいなと思いながら、その機会がなかったんです。
――ではこうやって対面して話されるのは?
瀬戸 初めてくらいですよね。
――ただ、もちろん他に女性の記者がおられるというのはご存知で?
瀬戸 はい。
世古 瀬戸さんの姿があると「瀬戸さんがいる!」って思っていました。やっぱり一人でも女性がいると心強いんですよ。あと「セト」と「セコ」で、ときどき記者室で聞き間違えて私が振り向いてしまうこともあって、勝手に親近感を覚えていました(笑)。
写真=橋本篤/文藝春秋