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幸せも健康も「主観的」なもの

和田 さらにぼくがいいなと思った描写は、20代の安田くんがお年寄りたちの輪の中にいたときは、彼らひとりひとりの個性が見えていたのに、ちょっと席を外したらただの「お年寄り」の集団に見えたというくだり。

 いまって、20代と80代が話をしても、若者用語とかスマホ的な話は通じないかもしれないけど、本質的なところでものすごいギャップがあるかといったら、朝倉さんが書かれていた通り、変わらないと思うんですよ。

 ところが話をしないから勝手なイメージの中で違う種族の人間に見えてしまう。話をしてみたらすごく普通で同じ人間なのに。

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朝倉 そうそう。自分の延長線上にいる人たちなのに「お年寄り」をガッツリ分断して、違う人種、特別な存在にしてしまっている気がしますよね。

 もっと言うと、最近、社会全体で「死」が特別なことになってきていると感じていて。それはなんか違くない? っていうのはずっとあります。

和田 おっしゃる通り。実は80代のお年寄りにとっても「死」が特別なものなんですよね。「もうどうせ老い先短いから」とか言うわりに、コロナ騒ぎのときにはみんなびびって外に出なかった。

朝倉 うちの母がよく言う「いつ死んでもいいけど、いまは嫌だ」ってやつですね(笑)。

 でも和田先生の「幸福の最高値に達するのは82歳以上である」という「幸福のU字カーブ」の話を読んで聞かせたら、それまで「今日具合悪いのさ」なんて塞いでいたのに、「その通りだ!」ってみるみる元気になったのには驚きました。
 

 

和田 そうでしたか(笑)。

 アメリカのダートマス大学のデービッド・ブランチフラワー教授が、世界145カ国を対象に人生の幸福度と年齢の関係を調べた研究のことですね。

 18歳から下がり始めて、48.3歳で不幸のピークに達すると上がり始め、幸福の最高値に達するのが82歳以上になる、その軌跡がアルファベットのUを描くので、「幸福のU字カーブ」と呼ばれているんですけど。
 
 面白いのは、先進国でも発展途上国でも、欧米でもアジアでもこのカーブは世界共通だということ。もちろん日本も例外じゃありません。人はもともと齢を取れば取るほど幸せになるようにできているんです。

朝倉 いやほんと、それを聞いたときの母の反応がすごかったんですよ。言葉の力で元気になれるのってすごい。和田先生の本が売れる理由がわかりました(笑)。

和田 だって「幸せ」も「健康」も、主観的なものじゃないですか。なのになぜか客観的なものだって勘違いされていると思うんですよね。お金を1円でもたくさん持たないといけないとか、医者の言う通りにしないと、とかになっちゃう。そこの感覚をまず変えていかないと。

朝倉 たしかにそうですね。

和田 言い方を変えれば、齢を取ることの良さって、そういう客観的な呪縛から解き放たれて、あくせく競争をしなくてよくなることだと思うんです。

 たとえば、本質的にはオタクなんだけどそれを隠して生きてきた人は、堂々と秋葉原のフィギュア屋に行ったり、乗り鉄・撮り鉄をしたり、主観的に好きだと感じるものをやったら幸せじゃないですか。変わり者が集まってアホなことをするのだっていいし、モテたい奴らがキャバクラ行ったっていい。高尚でなきゃ楽しんではいけないってことはないんです。

朝倉 そうですね。どんな形でも生きがいがあると、ハリが生まれると思います。

 でも、生きがいを求めているうちは多分だめで。ただ、出会っちゃえば宝物になる。

和田 そうそう。あってもなくてもどちらでもいいし、見つかればラッキーくらいに構えていた方がいいですよね。

 そういえばぼくが以前、九段下の喫茶店で見かけた光景なんだけど、カルチャースクールの続きなのか、70代くらいの男の人が60代くらいの女の人を5、6人周りにはべらせながら難しい話をしていて、すごくご機嫌そうにしてました(笑)。

朝倉 わかります(笑)。彫金教室の先生がモテる、みたいな感じですよね。父も昔、数人で集まって1泊とか日帰りで川下りをしたりとか、結構アクティブなことしていましたけど、そこに異性がいるのがちょっといいっていうか。張り合いが出る感じがあったみたい。

和田 そういうものですよ。実際、異性にモテたいという気持ちが、若々しさを保っている人も少なくないですから。

 かくいうぼくも初めて小説の執筆をしているところで。かなり過激な内容ではあるんですが。

朝倉 それはそれは! どういう方向に過激なんですか?

和田 常識と違うっていうのと、ある程度エロティックな内容になっています。

 うまく書こうと思っても書けるわけがないので、発想の面白さで勝負するって感じですね。幸か不幸かこれまで映画を撮ってきた経験があるので、映画のシーンをイメージして書いています。

朝倉 それはいいですね。お話を伺っていても、ご本を読んでも、おっしゃっていることがすごくわかりやすくてお上手なので大丈夫ですよ。和田先生にしか書けないものがある気がします。

 書いていて楽しそうですね? 

和田 はい。僭越ながら言わせていただくと、齢を取ってから物を書く方が、若い頃に食うために必死にやるのとはまたちょっと違っていいのかなと。この齢だからこそ楽しんでやれそうな気がしてますね。