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いまの60代は「若すぎる」

朝倉 今作を書きながら思ったのは、80代、90代は普通に書いていてもわりと問題ないんですけど、いまの60代って書くのがすごく難しいということですね。リアルに書くと若すぎる感じになってしまって、意識して年寄りっぽく書かないと60代っぽさが出てこないんです。

和田 60代は脳も身体機能もほぼほぼ衰えてないですからね。若くなりすぎたと感じる60代がリアルなのに。

朝倉 70代でもちょっと難しいですね。スマホとかガンガン使いこなしてメールとかいっぱい打っていると特別な人のように見えちゃうから。

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和田 70代の7割はスマホを使っているんですけどね。いろんな形で刷り込まれた高齢者バイアスがかかって読み手が違和感を覚えてしまう。

朝倉 そうなの!

和田 こういうバイアスをかけてしまっているいちばんの問題は、テレビ局とかラジオ局の人間、サービス業でも製造業でも経営者が、いまの年寄りが何を求めているのかとか、どんなものを使えているかとか、ほぼほぼ知らないってこと。

 お年寄り向けの番組を作るとなったら『水戸黄門』だろ、になっちゃう。80代でも、好きな番組を聞かれたらだいたい『相棒』や『開運!なんでも鑑定団』になるんですよ。お年寄りの知的レベルやアクティビティを勘違いしているんですよね。もう悲劇的。

朝倉 電子書籍を利用するお年寄りもたくさんいますからね。文字が拡大できるからいいって聞きますし。その前段階はちょっと面倒臭いみたいですけど。

和田 ぼくの『80歳の壁』という本はおかげさまで結構売れて、最大瞬間風速でAmazon1位になったりもしたんですが、電子書籍も珍しく売れたんです。明らかに高齢者が購入しているんですよ。スマホ使える人だったら簡単に読めますし。

朝倉 普通にできてますよね。私が近づいているというのもあるんでしょうけど(笑)、いまのお年寄りってこんなに若いんだ、わたしたちと変わらないんだって驚かされますね。

 同時に、若い人たちが想像するお年寄り像は、こんなに? っていうくらい老けているのもびっくりしちゃう。以前、小さい新人賞の審査員をやったとき、応募作品のなかで65歳とか70歳のおばあちゃんが戦争の話をしている記述があって、おかしいよねって。おばあちゃんは戦争の話をするものになっちゃってるんです。

和田 いまの70代の人が若い人に聞かせる話があるとしたら、高度経済成長やバブルの話でしょうね。彼らが小学生のときに流行った映画『ニッポン無責任時代』では、植木等演じる平均がその名の通り平均的日本人として描かれていましたけど、大学は中退し、夜は銀座で飲み、接待ゴルフに行っているんです。

朝倉 「もはや戦後ではない」の頃ですよね。お父さんの給料がどんどん上がって、ボーナスが出たらこれを買おうという時代。

和田 そういう元気な普通のお年寄りたちを、若い人だけでなく中高年の人たちも、お年寄りになる前の人たちが知らなすぎる。医者は医者で、職業柄、病気を抱える高齢者やうつ病や認知症の人は年齢より老けているから、これが70代80代だって思っちゃう。想像力のないバカが医者をやってるのが現状。

朝倉 ふふふ。

和田 だからぼくは患者じゃなくて、付き添いの妻や夫の方を見るようにしています。それでいまの70代80代がどういう感じかわかるから。

朝倉 ほぉ! やっぱりどんどん若くなっている感じですか?

和田 そこは年々ではなくて、明らかに戦後生まれの人たちが若いですね。理由は簡単で、子供時代の栄養状態が良くなったからです。

 多分朝倉さんも同じだと思うけど、ぼくらの子供の頃って給食で牛乳を、場合によっては脱脂粉乳を飲まされて、ちゃんと栄養を取らないとだめよって言われていた世代じゃないですか。

朝倉 そうそう、肝油とかもよく食べましたね。

和田 だけど、ぼくらより10とか20若い世代になると子供の肥満が問題だと大騒ぎして、栄養のとりすぎは悪いと、でまかせを教えるようになった。

 高齢者に粗食にしろ、と勧めるのもナンセンスですよ。がんで死ぬ人が多い日本では、栄養をもっと摂って、免疫力を上げるために肉を食べて、コレステロールを増やすように指導した方がいい。長生きするのにいちばん大事なのは栄養なんですから。