平均年齢85歳という超高齢読書サークルを描いた小説『よむよむかたる』が話題の朝倉かすみさんと、同じく新刊『老いるが勝ち!』で「人は齢を取れば取るほど幸せになるようにできている」と明言し、反響を呼んでいる和田秀樹さん。

 65歳以上の人口比率が過去最高の29.3%となり、人生100年時代がいよいよ現実味を帯びているいま、朝倉さんと和田さんに、これからの超高齢社会を“楽しく”生き抜く方法を語ってもらいました。

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「お年寄り」にも個人差がある

朝倉 今日はよろしくお願いします。うちの母が、私が和田先生と対談すると知ったらそんな有名な人とお話しできるなんて、ずいぶん出世したねってすごく喜んでいて(笑)。この『老いるが勝ち!』をちょうだい、と言ってきたくらい。

和田 おかげさまでというか、最近、お年寄りたちのアイドルっぽくなってるみたいで(笑)。

 ぼくも朝倉さんの『よむよむかたる』を拝読しました。高齢者を専門に診てきた医者の立場からしても、とてもリアルな描写があっていいなと思いましたね。
 
朝倉 よかった。

和田 とくに、高血圧で糖尿病の88歳の会長が、娘からおやつを止められている場面。臨床でも“あるある”なんですよ。血圧の高いおじいちゃんから醤油を取り上げたり、コーヒーに砂糖入れようとするのを止めたりするのって、大概、娘世代の人たちがやっていますから。

朝倉 でも和田先生的には「80過ぎたら我慢せず、食べたいものを食べる」のが正解なんですよね。

和田 おっしゃる通りです。ぼくがかつて10年ほど勤めた浴風会病院は日本初の老人専門の総合病院ですが、そこで15年くらいの追跡調査をしてわかったのは、血圧は130くらいの群と150くらいの群で、死亡率が変わらなかったということなんですよ。180くらいの群になると死亡率が高まるので、180ある場合は下げた方がいいかもしれないけど、150なら下げなくてもいい。血糖値に至っては、正常群も境界群も糖尿病群も全く死亡率が変わらなかった。下げる必要はないんですよ。

 だからこの88歳のおじいちゃんにインスリン使うとかって、ぼくからすると馬鹿げているとしか言いようがなくて。医者は余計な指図をするなって話だし、むしろ88歳のおじいちゃんが「おれは平均レベルより長く生きてるんだ。おまえに言われる筋合いはない」って医者に言うくらいでちょうどいいとぼくは思っていて。

朝倉 なるほど。

 

和田 ただ本当にこういうシーンはよくあることなんですよ。それともう一つ、ぼくがリアルだと感じたのは、ここの読書会に参加するお年寄りたちがみんな元気だということ。

 いまってお年寄りを「ダメになった人」とか「もう終わった人」扱いしてるじゃないですか。たとえば75歳以上は車の免許更新の際に認知機能検査を受けて、合格しなければ取り上げるとか。でもいまの75歳ってまだバンバンに元気だし、そのくらいの年代のタクシーの運転手さんもいるし、ぼくの伯父は100超えていますけど、近所だったら運転できるんですよ。下手すりゃ75で自分の親の介護をしている人だっている。

 普段ちゃんとお年寄りを見ている人は、こういう個人差があるっていうことを知っているんですよ。朝倉さんがこうしたお年寄りの日常とか、人とのつながりとか、能力とかをきちんと描かれていたのが非常に良かったと思います。

朝倉 ありがとうございます。まさに、お年寄りに個人差があるということが無視されすぎているんじゃないか、というのが執筆の理由のひとつです。たとえば「お年寄り」と聞いたとき「ジジババ集団ね」って十把一絡げにされがちじゃないですか。でもよく見るとみんな違うし、健康じゃなくてもお元気な人っているんですよね。いろんな人がいるっていうのはもっと知ってほしいと思って。

和田 本当にその通りですね。

朝倉 たださっきの免許の話でいうと、父が生きているときは私も義妹も「危ないから免許返した方がいい」って言っていた側なんですよ。うちの弟だけが「車が運転できなくなったら、男としてつらいんだ」って反対していて。いまなら父や弟の言い分もわかるような気がします。

和田 男としてつらいこともそうなんだけど、いちばんの害は、車を取り上げることで外に出なくなっちゃうことなんですよね。

 だからぼくは「高齢者は免許を返納する必要はない」と主張しているんだけど。