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「分断」から「共生」へ

和田 もうひとつ、読んでいてリアリティを感じたし、広く気づいてほしいと思ったのは、地方のお年寄りも都会のお年寄りも生活の質が変わらないというところ。

 田舎のお年寄りってみんなお百姓さんってイメージがあるかもしれないけど、地方だってほとんどの人が第三次産業とか第二次産業に就いているわけで、都会と変わらないんですよね。

 むしろ物語の舞台になった小樽なんかは文化レベルもとても高いし、ヨーロッパみたいな雰囲気がある美しい街じゃないですか。知らない人は「小樽なんて住んでたら不便でしょう」と言うかもしれないけど。

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 地方と都会の格差ってよく言うけど、地方の人たちの能力的なものや文化的なものをみくびっている証拠、知らないうちに差別しているんですよね。
 
朝倉 そうかもしれない。

和田 こういう本でお年寄りとか地方の生活がこれまでのイメージと違うって気づく人がいる一方で、読まない人は東京のテレビが言っていることが本当だと思っちゃうわけだよね。地方への差別も、年寄りへの差別もいい加減やめた方がいい。

朝倉 私いま、YouTubeにハマっててよく見ているんですけど、ごりっごりの認知症のおばあちゃんが出てきたり、すっごい元気な90歳が出てきたりするのが面白いんですよ。こういうのを見るだけでも、お年寄りへの理解が進むかもしれないな、と思います。

和田 リアルな姿がわかりますよね。認知症になったら日本語が通じないみたいな錯覚をしている人もいますけど、認知症ってかなり重くなるまで普通に話ができますから。

朝倉 重くなったときもAIにデータを仕込んでおけば、何回も同じことを聞かれたとしてもいくらでも答えてくれるようなんです。私が見た動画では、AIが「おばあちゃんは歌を歌うのが好きじゃないですか、歌を歌ってください」とか「それは苦労しましたね」とか完璧な相槌も打っていましたよ。

和田 AIをもっと活用すれば、お年寄りとの暮らしは楽になるはずなんです。ぼくですら……って、偉そうなことは言えないけれど、毎朝家の鍵をどこに置いたか忘れてウロウロします。

朝倉 あはははは!

和田 毎晩飲んでいるせいで、鍵を置いた場所を覚えていないんだけど。だから腕時計にAIのついたカメラを載せてドライブレコーダーみたいにずっと録画しておけば、昨日の何時何分に鍵をここに置いたと教えてくれるでしょうし。あるいは、初期の認知症の人とかはとくに昨日買ったものをまた買ってしまうことってよくあるんですが、冷蔵庫を開けたときの映像をカメラで録画しておけば、スーパーで買わないよう教えてくれることも可能なわけです。

 そういう時代がもう本当に近くなってきているのは間違いなくて。本を読んだりYouTubeを見たりして、いろいろな情報を自分で取りに行くことが大事ですよね。

朝倉 「こんにちは」ってお年寄りに話しかけてみたらいいと思いますね。私の場合は、お年寄りから話しかけられることが多いのでそのまま会話したり、何かしらまごまごしていたら「どうしました?」ってこちらから話しかけたりします。

和田 ぼくが考えるお年寄りとそれ以外の分断をやめるいちばん簡単な方法は、いまみたいに高齢者だからと会社を追い出すのをやめること。人によっては威張ったり、年長者ヅラしたりするやつもたまに出てくるかもしれないけど、普通に一緒に働いていたら別世界の人たちと思わないと思うんですよね。本質的にお年寄りと我々ってそんな違わないですから。

朝倉 本当、そうですね。

和田 芸能人も例外じゃないですよ。先日も中尾ミエさんと『60代から女は好き勝手くらいがちょうどいい』という本のために対談をしたんです。中尾さんは78歳でとても若々しいけれど、特別なことは何もなくて。体操するのが好きだから公園にいると自然と仲間が集まるって言っていました。

朝倉 つい、芸能人だから~とか、きっとお金使っているんでしょ~って言いたくなりがちだけどそうじゃないんですね。

和田 そりゃあお金は使っているでしょうけどね。吉永小百合さんももうすぐ80歳で、たしかに吉永さんと同じビジュアルは難しいかもしれないけれど、体力作りとか、会話の内容とか、生き方とかは真似できると思います。

朝倉 最後に質問、いいですか?

 和田先生の本を読みながら、子供の頃見ていた『時事放談』(TBS系)を思い出したんです。こんなに好きなことを言っていいんだって思って(笑)。リスクは感じないですか? どこからこのビビらなさは出てきたんですか?

和田 すごく不遜な言い方をすると、親から「あんたを馬鹿にしたり仲間はずれにする方が馬鹿なんだ」って言われて育ったから、わりとそこには強いんですよ。ぼくは小学校6年間どころか中学高校ずっといじめられっ子だった経験があるんだけど、仲間はずれとか変わり者扱いされる方が天才だって思えたというか。

朝倉 子供の頃に孤独を感じた人は強いのかもしれないですね。

和田 孤独かどうかは別ですけど、みんなに合わせているやつの方がつまんないって思っていましたね。たとえばエジソンもそういう人だと思うし。スティーブ・ジョブズとかビル・ゲイツ、イーロン・マスク、日本だと茂木(敏充)さん、堀江(貴文)さんもそうじゃないですか。

 齢を取っていいことの一つは、そういう変わり者たちが仲間はずれを恐れず、変わり者として生きられることじゃないかな。会社勤めで生きづらかった人もそこから外れられる。齢を取るのは嫌なことばかりじゃないって伝えたいですね。

朝倉 いや~、本当に面白かったです。ありがとうございました。母に自慢します(笑)。

 

あさくら・かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。2003年「コマドリさんのこと」で第37回北海道新聞文学賞を、04年「肝、焼ける」で第72回小説現代新人賞を受賞し作家デビュー。09年『田村はまだか』で第30回吉川英治文学新人賞を受賞。19年『平場の月』で第32回山本周五郎賞受賞。他の著書に、 『ほかに誰がいる』 『てらさふ』 『満潮』『にぎやかな落日』など多数。24年9月に最新刊『よむよむかたる』を刊行。

 

わだ・ひでき
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガ―精神医学校国際フェロー、和田秀樹こころと体のクリニック院長を経て、医療法人社団ルネ理事。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。『80歳の壁』など著書多数。24年8月に『老いるが勝ち!』を刊行。