働いている身体は、眠ることも食べることも必要としていない。
そんな歪んだ真実を描いた、映画『ラストマイル』が大ヒットしている。9月30日に発表された映画観客動員ランキング(興行通信社)によれば、累計動員338万人、興行収入50億円を突破。原作なし、オリジナル邦画作品では異例の大ヒットだ。
「悪」対「サラリーマン」の単純な構造では終わらない物語
『ラストマイル』の主人公は、巨大物流倉庫センター長・舟渡エレナ。満島ひかり演じる彼女は、どんな事件が起こっても、物流を「止めない」ことにコミットし続ける。一方、チームマネージャーの梨本孔(岡田将生)は、そんなエレナの行動に少しずつ違和感を覚える。というのも、エレナがセンターにやってきた日、エレナや孔の勤務する通販会社DAILY FAST(今後デリファスと略す)のサイトで購入された商品が……次々に爆発する大事件が起こったからだ。爆発事件の犯人は見つからないまま、エレナと孔はその対応に追われることになる。
その日は折しも、「ブラックフライデー」――デリファス主催の大セールイベント――のタイミングだった。爆発事件が起こったからといって、物流が止まってしまっては、ブラックフライデーで得られる利益がゼロになってしまう。外資系企業の一部である日本支社の成績を、ゼロにする訳にはいかない。エレナと孔の挑戦が始まった。
……と、あらすじを書いていくと、未曽有の爆発事件という「謎の悪」に対して、エレナや孔という「サラリーマン」が力を合わせて立ち向かう話に見えるかもしれない。だがこの物語はそんな単純な構造では終わらない。実は、エレナや孔もまた、爆発事件に意図せず関わっていたのである。
もちろん爆発事件の謎解きは映画を観ていただきたいのだが。
『ラストマイル』に描かれた「眠らない」社会
私が面白いなと感じたのは、『ラストマイル』は映画中ずっと「眠らない」社会を描き続けているところである。
たとえば、本作はたった4日間の出来事を描く。その間、主人公のエレナはほとんど眠らない。もちろん人間なのでうとうとする場面はあるのだが、画面のなかで眠るエレナは4日間ほぼ見られない。ちなみに例外シーンはあるのだが、それは映画を観てのお楽しみとしてほしい。