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 外資系企業に勤めるエレナは、4日間ほとんど眠らない。そして委託ドライバーの佐野親子は、4日間のご飯をトラックの中で食べる。

『ラストマイル』にはまさに、「眠る」「食べる」ことを切り詰め、仕事に最適化された身体を受け入れる日本人が描かれているのだ。

 私は彼らの姿を見て、「仕事をしていると、できるだけ睡眠や食事の時間を切り詰めることが効率いい、と思ってしまうんだよな」と涙が出そうになった。もちろん『ラストマイル』は決して、働いてる人は眠らず食べないままでいいというメッセージを描いている映画ではない。むしろ逆だ。働き、眠らず、食べない身体が、どうなってしまうのか。その先にある姿を、しっかりと本作は描く。

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『ラストマイル』公式Xより

 絶対にちゃんと寝てちゃんと食べて、そのうえで働いたほうがいい。映画館を出た観客は、きっとそう思うだろう。

眠り食べながら働く社会をどうつくるか

 しかし同時に本作は、「ちゃんと眠り、食べ、そのうえで働くことが、この社会でどれだけ難しいか」ということも問いかけている。

 ちゃんと眠りそして食べながら、成果を出すまで働き続けることは、とても難しい。本作を見ていると、それを痛感する。アメリカをはじめとして、海外の業績に負けないように働かなくてはいけない。自分の責任範囲でミスを起こさせるわけにはいかない。時代の流れに追いついて、自分の食い扶持を確保していかなくてはいけない。――現代日本で働く私たちには、そういった圧が確かに存在している。しかし、それでも、ちゃんと眠って、ちゃんと食べないと、働き続けることはできない。

 この矛盾をどうやって両立するのか。映画『ラストマイル』はそう問う。

 働いている身体は、眠ることも食べることも必要としていない。しかしそれでも、私たち生きる身体は、眠ることも食べることも必要としている。

 だからこそ、ちゃんと眠りちゃんと食べながらそれでも働き続ける方法を、日本全体で探していくべきではないのか。満島ひかり演じるエレナが眠れなかった4日間が問いかけるのは、私たち日本人が眠り食べながら働く社会をつくる方法なのである。