映画『ラストマイル』が公開25日間で観客動員数271万人、興行収入38.5億円を突破した。ドラマ『アンナチュラル』と『MIU404』を手がけた塚原あゆ子監督と脚本家・野木亜紀子氏による作品で、その舞台は「世界規模のショッピングサイト」の巨大物流倉庫や、運送会社のオフィス、配送の現場だ。90年代から物流業界を取材してきたジャーナリストの横田増生氏が、“業界のリアルな現状”について解説する。(全2回の2回目/前編から続く)
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2度、アマゾンの物流センターで働いた
私は『潜入ルポ アマゾン・ドット・コムの光と影』(2005年刊)と、『潜入ルポ amazon帝国』(2019年刊)を書くため、2度、アマゾンの物流センターで働いたことがある。また、『仁義なき宅配』(2015年刊)を書くため、ヤマト運輸の仕分けセンターで夜勤として働くのに加え、宅配の配送車や深夜の長距離トラックに横乗りもした。
そうした現場の視点を加えて観るなら、この映画にはエンターテイメント性だけでなく、リアリティも持ち合わせていることがわかる。
映画では、爆発事件を引き起こす原因として、通販企業の物流センターでの過重労働が描かれる。
アマゾンジャパンの過酷な労働環境
私は2017年、アマゾンジャパンの小田原の物流センターで働いた。ここで働くアルバイトは通常1000人程度で、年末の繁忙期には2000人にまで膨らむ。5階建ての延べ床面積は4万平方メートル。
午前9時から午後5時まで働いた私の作業内容は、ハンディー端末に現れる商品を棚から探してくるピッキング作業。ハンディー端末には、次のピッキングまでを終える秒数が出てくる。近い場所なら30秒、ちょっとはなれた場所なら1分――というように。
作業工程のログは、すべてアマゾンが保存している。つまり、一挙手一投足を監視されながら働くことになる。1日に歩く距離は、20キロを超えた。
現場作業は、下請け、あるいは孫請け会社が管理しており、アマゾンの正社員が作業現場に顔を出すことはない。アルバイトは、正社員のことを「アマゾン様」と呼んでいた。文字通り、雲の上の存在だ。
潜入取材を足掛かりに取材すると、物流センターの稼働から4年間で、少なくとも5人のアルバイトが勤務時間中に亡くなっていることがわかった。
1人は50代の女性で、私が働きだす1週間ほど前に作業中に倒れた。