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 さらに眠らないのはエレナだけではない。エレナたちの勤務する会社デリファスもまた、眠らない。眠ろうとしないのだ。つまり、Amazonという現実の大手通販サイトを彷彿とさせるデリファスが、24時間ずっと動き続けている様子を本作は描く。

 もちろん映画では、業務に携わる派遣社員たちが倉庫に入っていく朝の様子も描かれるし、デリファスの倉庫に人がいない時間もある。だがエレナたちは、とにかくデリファスから配送業者、そして客のもとへ商品が渡される流れを「止めない」ことを志向する。それはまるで、物流会社が「眠らない」ことをいかに重視しているか、を描こうとしているかのように。

写真はイメージ ©AFLO

 テロが危ぶまれる謎の爆発事件が起こっても、警察から調査のために配送を止めてほしいと言われても、配送業者からクレームが入っても、それでもエレナは物流を「止めない」努力をする。エレナの責任範囲で、物流を「止める」わけにはいかないのだ。それこそがエレナという女性の行動原理なのである。だからこそエレナ自身も止まろうとしないし、眠ろうとしない。大事件が起こっている時に、眠っていては何が起こるか分からないからだ。

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 さらにエレナらの働くデリファスは外資系企業で、本社はアメリカにある。それゆえエレナは常にニューヨーク市場の時間を意識する。彼女はアメリカ時間で動くように訓練されている。つまり彼女は、日本時間では「眠る」タイミングであっても、仕事上――外資系企業の時間割――は「眠れない」ことを受け入れる身体になっている、ということでもある。

ご飯の時間を切り詰めるドライバーたち

 さらに本作のもうひとりの主人公は、登場する配送を委託されたドライバーである佐野親子だ。映画では、彼らを火野正平と宇野祥平が好演している。

火野正平演じるドライバー 『ラストマイル』公式Xより

 彼らはドライバー業務のなかで、いかに時間内に効率よく配送をおこなうかが自分たちの仕事だと語る。そのため、昼ご飯は簡単にトラックのなかで済ませる描写が何度も登場する。そしてドライバー業務のなかで、危ない目にも遭う。

 ドライバーたちは、ご飯の時間を切り詰めている。きちんと食べることも放棄するくらい、まじめに働いているのだ。しかし彼らは大事件のリスクを背負う存在でもあることが、本作ではドライバーの佐野親子に象徴される。