血管内皮細胞の「NO」産生機能が弾力を増す
最初に、血管がどういうものかをお話ししていきましょう。
血管の健康を保つために意識していただきたいのが、大血管である「大動脈」と、髪の毛よりはるかに細くて体の末端まで張り巡らされている「毛細血管」です。
大動脈は、心臓から送り出される血液を全身に運ぶ幹線道路のような存在です。血液は心臓から秒速1メートル弱の勢いで大動脈へと飛び出してきます。そして1分弱で体内を循環して心臓に戻っていくのです。
動脈は、内膜、中膜、外膜の三層構造になっています。大動脈は心臓から送り出される血液の高い圧に耐えうるように内径が大きくできていて、胸部大動脈だと約3センチ、頸動脈で約1センチあります。
血液の流れと接する内膜は、内皮細胞という薄い一層の細胞と、それを支える結合組織でできています。
内皮細胞は1980年頃まで、単なる壁のようなものと捉えられていました。ところが研究が進み、非常に重要な役割を担っていることが明らかになったのです。
最も注目すべきは、「一酸化窒素(NO)」の産生です。
NOは血管の弾力性を出すためのガスとして、内皮細胞から血液中に放出されます。血管内にNOが増えると、中膜にある平滑筋という筋肉が緩み、血管が広がります。その結果、血流がよくなって、血圧が高い場合は下がってくるわけです。
この現象を解明したアメリカの薬理学者ロバート・ファーチゴット博士らは、1998年、ノーベル生理学・医学賞を受賞しています。それまで大気汚染の原因物質として認識されていたNOが、実は人間の体内で血圧や血液循環の調整に不可欠な物質だと明らかになったことで、NOに関する研究は生命科学分野で爆発的に増えました。
内皮細胞は他にも、血管内で血液が固まって血栓が作られるのを防止する役割を担っています。
中膜は、前述した平滑筋細胞や血管の弾力性を保つ弾性線維などでできており、動脈がしなやかに収縮と拡張を繰り返しながら血液を流し、酸素や栄養素を運ぶことを可能にしています。
しかし、血管が老化することによって生じるのが「動脈硬化」です。
(構成・秋山千佳)
※本記事の全文は、「文藝春秋」2024年11月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(伊賀瀬道也「高血圧、糖尿病、認知症、腎臓病、心臓病を防ごう 血管のアンチエイジング」)。この記事では下記の内容を詳報しています。
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