愛媛大学抗加齢医学講座教授の伊賀瀬道也氏は、愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センターでセンター長を務めている。伊賀瀬氏によると、老化予防の鍵は“血管”にあるという。

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「血管力」こそが心身の老化予防の鍵

 今年8月、「人には急激に老化が進む時期が2度ある」という内容の論文が世界的に注目を集めました。米スタンフォード大学などの研究チームが発表したもので、健康な男女108人を数年間にわたって調べたところ、44歳と60歳のタイミングで急激な老化が生じていたというのです。

 これは循環器内科医の私の専門である“血管”の観点からも納得のいく結果です。

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 平均的傾向として、44歳頃は、大動脈の動脈硬化が顕著に表れはじめる時期です。動脈硬化が生じると、全身の老化が加速し、病気も多発するようになります。

 そして60歳頃には、毛細血管の数が20代の頃の6割程度まで減ってしまうことがわかっています。その結果、高血圧になりやすくなり、見た目もぐんと老け込みます。

「人は血管とともに老いる」という格言があります。17世紀のイギリスの医師トマス・シデナムの言葉とされますが、近年の研究がまさにこの言葉を裏付けているのです。

 一方、私はこの格言を「老いが早いか遅いかは血管次第」と解釈し、アンチエイジングに活かすこともできると考えています。

 私がセンター長を務める愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センターでは、2006年の開設以来、国立大学で初の「抗加齢ドック」を実施してきました。主に40〜70代の人が対象で、頭部MRIや頸動脈エコー、脈波伝播速度検査(いわゆる「血管年齢検査」)といった血管系の検査などを行います。

伊賀瀬道也氏 Ⓒ文藝春秋

 このドックを通して、私は約3000人(延べ約4000人)の患者さんの老化と向き合ってきました。検査結果は、患者さん本人への疾病リスクや運動療法・食事療法の指導に用いるだけでなく、研究にも活用させていただいています。これほどの規模のデータは世界的にも貴重なようで、論文を発表するたびに海外の研究者たちから驚かれます。

 こうした蓄積から実感するのは、血管の健康状態、いわば「血管力」こそが、心身の老化予防の鍵であるということです。

 日本では、高血圧ひとつ取っても推計約4300万人の患者がいるとされています。国民の3人に1人が血管力の危機にある計算です。安易な治療によってかえって老化を早めているケースも散見されます。

 医療に頼るだけでなく、自分でも日々血管力を意識し、鍛えていってほしい。そのための最新の知見を、皆さんにお伝えしたいと思います。