ドナルド・トランプが2016年11月、大統領に当選した当夜、その意外な結果に誰よりも驚いたのはトランプ本人だった。
当選が確定するまでの1時間あまり、トランプの様子は七変化した。混乱し、呆然とし、さらには恐怖にかられる。そして当選が確定すると、トランプは「幽霊を見たような顔をしていた」という。(出典:『炎と怒り トランプ政権の内幕』)
16年のトランプ勝利は薄氷を踏むような辛勝だった
ヒラリー・クリントンと戦った選挙において、「世紀の番狂わせ」によって大統領の座を射止めたトランプには、選挙に強いのではないか、という誤解がある。
しかし、トランプは選挙に弱い。
たしかに、16年の選挙ではトランプは勝利した。獲得した選挙人数は、クリントンの232人に対し、トランプは306人。しかし、総得票数となると、トランプの約6300万票に対し、クリントンの約6600万票と逆転する。
各州で、得票数で勝った方が、その州の選挙人を総取りするアメリカ特有の選挙事情により(例外あり)、こうした捻じれ現象が起こり得る。だが、その頻度はまれで、過去100年に行われた大統領選挙で2回だけだ。トランプvs.クリントン以外では、2000年に戦った、ジョージ・W・ブッシュ(子)vs.アル・ゴアだけ。
トランプの16年の勝利は、世紀の番狂わせではあったが、薄氷を踏むような辛勝だった。
20年の大統領選挙において、トランプは、現職有利と言われる選挙戦で、ジョー・バイデンに選挙人数でも総得票数でも負けるという完敗を喫している。過去100年において、敗北した4人目の現職大統領となった。
それだけではない。
22年の中間選挙では、敗北後もトランプが影響力を維持する共和党が、民主党に大勝利し、“赤い大波(赤は共和党のイメージカラー)”が、起こる、と予想された。しかし、蓋を開けてみれば、直前にトランプが大統領選挙への出馬を宣言をほのめかしたことが足を引っ張り、下院では共和党がどうにか過半数を維持したが、上院は民主党が主導権を維持する結果になった。