終局後、インタビューを終えて大盤解説会場に対局者が現われた。

 まずは王座を防衛した藤井聡太が挨拶。

「シリーズ通して難しい局面が多くて、収穫もいろいろあったかなと思うので、それを今後も生かしていけるように頑張っていきたいと思います」

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あまりこわばった雰囲気はなく、藤井も永瀬もすぐに笑顔を見せた

 見ていた我々のほうが衝撃を抑えられないなか、永瀬拓矢はしっかりと挨拶をした。

「本譜の▲9七歩で後手玉で不詰めになるのがエアポケットに入ってしまいました。▲6二馬と動いた瞬間に△9六香とされたので、読みが足りなかったと。また、ゼロから頑張りたいと思います。本日はありがとうございました」

 会場からは、大きな拍手がわいた。

 対局場に戻り、感想戦が始まった。あまりこわばった雰囲気はなく、藤井も永瀬もすぐに笑顔を見せた。途中から口頭での感想戦になったかと思うと、再び駒を動かし、またも口頭感想戦にと、いつまでも続きそうだ。とはいえ王座戦五番勝負が藤井防衛で終幕したので、記者会見が待っている。谷川が声をかけ、両者深々とおじぎして王座戦が終幕した。

永瀬拓矢九段

 藤井が3連勝で防衛、22歳にして8つあるタイトルのすべてで防衛を達成、またも不滅の記録を打ち立てた。歴代タイトル獲得数も上位6位、25期に伸ばし、5位の谷川27期に迫ってきた(なお1位は羽生善治の99期)。

「第一感は▲9七桂だったんですけど…」

 皆で余韻にふけっていると、主催者から「関係者のみで打ち上げをします。もう永瀬先生が来ておりますので、棋士の皆さんどうぞ」と。そして私には「(記者会見と)どちらに出ますか?」。もちろん答えは決まっている。永瀬に話を聞くには、ここしかチャンスがない。

 打ち上げ会場に行くと、永瀬がスマートフォンの画面を見ていた。

 永瀬から「勝ちと思って踏み込んだんですが、△7一桂がしぶといんですね」と話しかけられ、皆ほっとしたように会話が弾んでいく。稲葉が「一目は簡単に寄りそうですよね」と言えば、糸谷も「7四角7五桂の形は寄りから入りますよね」と同意する。永瀬は話し続けた。