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オーバーヒート寸前まで準備すると思わぬ宝に出会える

2時間15分ぶっ通しで喋り続ける「トーキングブルース」では、このオーバーヒート寸前状態がずっと続くせいで、まるで焼き切れ寸前の、煙が出ているような状態になる。公演中は半狂乱。少し宙に浮いているような感覚だ。何カ所か意識や思考がパーンと飛んだり、脳と肉体の連携がまずくなって滑舌に悪影響が出たりする。

人間が1対900で向き合っているのだ。そこには快感もあるし、幸福感もあるし、たくさんのお客さんにお越しいただけてうれしいのだけれど、やっぱり等身大・実寸大の自分ではとても耐えきれない。もし、本当に素の自分になってしまったら、「すみません、失礼いたします。空席が見えるので、僕も客席に行かせていただきます」となってしまうだろう。

でも、その半狂乱でオーバーヒート寸前の異常な脳の状態で夢中でやっているうちに、まるで福音が降りてきたかのような瞬間が訪れるものなのだ。普段では作動しない予感が走るなど、特別な感覚になることが本当にある。

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オーバーヒート寸前の状態を続けるのだから、いくらかは肉体にも精神にも休息が必要だ。でも焼き切れそうなまでに、準備にのめり込むと、思わぬ宝に巡り合える。

苦しみのどん底だと思っても、それは本当のどん底じゃない

やみつきになれるほど準備が癖になれば、そこには「苦しみの愉悦」が生まれ、オーバーヒートしそうなほどの準備が楽しくなってくる。

ただし、オーバーヒート寸前になるまで脳をフル回転させるのは、そう簡単にできることではないかもしれない。慣れないうちは、まだ泳ぎを知らない子供のように準備の海でアップアップするし、苦しく感じることだってあるだろう。

僕の場合、特に「報道ステーション」のメインキャスターになりたての頃は、本当に苦しかった。プロレスやF1の実況でも、しばしば視聴者の厳しい声を浴びていたが、「報道ステーション」のそれはわけが違う。その都度傷つき、また、自分の言葉で人を傷つけてしまったことも数知れず。そんな中で最初の頃は「この苦しみからは永遠に抜け出せない」なんて思っていた。当然、その心持ちで向き合う準備も、苦しかった。