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「撮影をしていた去年の夏は女優として、『自分の本心ってなんだろう、なにが楽しくて、なにがしんどいのか』と思い悩んだ時期でした。完成した『本心』を見て、自分にとって必要な映画だったと思います」と話した。

三好彩花役は運命だった、と話す三吉彩花さん。©2024 映画『本心』製作委員会

田中裕子が演じた「現実」と「仮想空間」を生きる二人の母親

 田中裕子さんは、現実に生きていた母と、VFとして再現された母をどう演じ分けたのだろうか。池松さんから、その方法を尋ねられた田中さんは「特にないですよ」と謙遜したが、その違いは観客を魅了するものだった。

 池松さんは「VFというのは、人間の欲望が作り出したもの。VFとして蘇った母となった田中さんの演技を見れば見るほど感動しました。人間らしく演じれば演じるほど、AI技術というものが恐ろしくなりました」と、絶賛した。

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 石井監督は、「今作では、情熱を持った俳優のみなさんが真摯に映画に向き合ってくれました。その演技は神々しいものでした。田中さんも、三吉さんも、スクリーンの前の観客が『この人は生身の人間じゃない? それとも本物?』という疑問を持った瞬間に、すべての印象が変わる素晴らしい演技でした」と語った。

VFとしてよみがえった田中裕子さんの演技は、試写会場の観客を驚かせた。©2024 映画『本心』製作委員会

人間とAIがどう共存していくかが問われる時代に!

 試写を終えた会場は、独特の雰囲気に包まれていた。

 死んだ人がVFで蘇るという近い将来の光景。喪った人と再会できる――その先にある驚きと感動を受けとめた観衆に向けて、池松さんはこう語りかけた。

「みなさんに、良い余韻が残っていたら嬉しいです。これからの十年は、人間とAIがどう共存していくかが問われることになると思います。世界が変わっていく中で、迷子になった青年・朔也を演じてみて、『生きる実感を手放さずにいたい』。そう思いました」

 石井監督は、「この小説と映画で描かれた負の側面が、将来必ず訪れるはずです。そのときに、主人公の朔也や三好の苦悩、VFで再現された母の笑顔――それが私たちの希望になるはず」と映画への願いを話した。

 “亡くなった人をAIで蘇らせる”そんな未来は、私たちの心をどう動かすのか。映画『本心』は、11月8日に全国で公開される。

石井裕也監督は、出演者たちの演技に神々しさをかんじた、と話した。©2024 映画『本心』製作委員会

INFORMATION

©2024 映画『本心』製作委員会

映画『本心』 11月8日(金)全国公開

原作:平野啓一郎

出演者:池松壮亮
三吉彩花 水上恒司 仲野太賀
田中泯 綾野剛 / 妻夫木聡 田中裕子

監督・脚本:石井裕也

配給:ハピネットファントム・スタジオ

©2024 映画『本心』製作委員会