社会的に問題にされなかった
司法によって認められた、日本で最大の売り上げを誇る芸能事務所のトップによる性加害の実態。だが、一審判決を扱ったスポーツ紙らは、掌を返したように一切触れず、全国紙も朝日と毎日が小さく報じたのみ。テレビは言うに及ばず、広告業界も何事もなかったかのように、ジャニーズ事務所のタレントの起用を続けた。前出のアザー氏は、驚きを隠さない。
「事実とわかったにもかかわらず、社会的に問題にされなかったことに衝撃を受けました。彼はジャニーズ事務所を運営することを許され、何十年もの間、国の宝として崇められてきた。掘り下げれば下げるほど、よくわからない話でした」
マッサージを口実に体に触れる
ジャニー氏が社会的に弾劾されることはなかった。それはジャニー氏に“生き方を改める必要はない”と思わせたのだろうか。番組では、判決後もジャニー氏が変わらなかったことを暗示する人物が登場する。2002年から10年間、ジャニーズにジュニアとして所属したリュウ氏だ。
BBC取材班が何人もの元ジュニアに連絡をしたところ、彼が返事をくれたという。アザー氏が明かす。
「証言を躊躇する人が殆どでしたので、『声を上げることが社会やあなたのためになる』と説得するのが大変でした。ただ、私がアウトサイダーだったことで、日本人よりは話しやすかったのかもしれません。日本語が話せないことが、結果的にかなり役に立ちました」
リュウ氏は16歳頃の出来事を明かした。彼は現在31歳。つまり2007〜2008年頃に起こった話である。
「最近忙しいだろうから、マッサージしてあげるよ」
「ジャニーさんのことは今でも大好きですよ」
手口はハヤシ氏と同様だ。家に行き、ご飯を食べ、お風呂に入れて貰う。そして寝室でマッサージを口実に体に触れる。ジャニー氏の手は、リュウ氏の肩から、どんどん下がっていった。彼は「遂に僕の番が来たか」と思ったという。だが、リュウ氏は断ることができた。
「もうそろそろ度を超えそうだなと思ったので、これ以上はダメだよというふうに言って。僕はそれをはっきり言えたので」
するとジャニー氏は彼に「ごめんね」と言い、他の部屋に行ったという。判決後も、ジャニー氏の振る舞いが変わらなかったことを示す重要な証言だ。
番組で明らかになった、もう1つの深刻な点。それは被害を受けた元ジュニアが、ジャニー氏への感謝を口にしていたことだ。リュウ氏は世話になって愛もある人だと、「ジャニーさんのことは今でも大好きですよ」とはっきり語っている。