最もショックを受けたこと
登場するもう1人の被害者のジュンヤ氏。2008年から6年間、ジュニアで活動した彼は、「マッサージしてもらったレベルの、ほんの少しの延長」の行為をされたと語っている。だが、取材でジャニー氏を責めることはなかった。アザー氏が語る。
「最もショックを受けたのは、ジャニー氏の不適切な行動を経験した人たちが、『大したことではなかった』と言っていたことです。フランス語で『ブラゼー』と言いますが、『まぁまぁ、わかったよ。起こってしまったこと、そんなに悪いことじゃなかったよ』という態度です。これは自己防衛本能ではないかと思っています」
前出の担当記者も言う。
「性被害を打ち明けてくれた少年の中には、『ジャニーさんはすごく良い人だった』と言う方もいました。法廷で証言してくれた少年も、裁判官からジャニー氏に伝えたいことはと問われ、『ジャニーさん、長生きしてよ』と語ったそうです」
アザー氏は「これはグルーミングだ」と指摘する。グルーミングとは子供を懐柔する行為で、暴行・脅迫を伴わないもの、性的な目的を有するものを指す。性犯罪の被害者支援に携わる川本瑞紀弁護士が解説する。
「性被害に遭っても、なかなか認められないことも多い。それは自分を無条件に肯定してくれた人が、性行為だけが目的だと信じたら、自分が壊れてしまうから。だから認めたくないのだと考えられます」
ジャニー氏は2019年に亡くなるまで、生涯、男性アイドルのプロデューサー業を全うした。2012年には「最も多くのナンバーワンアーティスト」をプロデュースした功績などで、ギネスブックにも名を連ねた。だがそれは、少年たちの悲劇の上に成り立っている。
ジャニーズ事務所は、姪の藤島ジュリー景子氏が社長の座を受け継いだ。これまで彼女がジャニー氏の性的虐待について、公式に見解を表したことは無い。BBC取材班もジュリー氏にメール、電話で繰り返し取材を申し込んだ。ジャニー氏の行為について詳細に訊ねたが、彼女が応じることはなく、アザー氏らはジャニーズ事務所本社に直接乗り込んだ。それでも取材は叶わなかった。インマン氏が語る。
「日本のエンターテインメント界で、ここまで力を持つ会社が取材を受けないことにとても驚きました。少年の性被害という重大な問題について聞いているわけですから、説明する責任があるはずです」
ようやく返事が来たのは、放送が決まり、内容についてジャニーズに通告した際のことだったという。文書で、ジャニー氏の死去に伴う経営陣の刷新で、コンプライアンス重視を徹底し、ガバナンス体制を強化している旨が記されていたが、性的虐待に対する回答はなかった。