1ページ目から読む
4/7ページ目

これを我慢しないと売れないから

 これは単なる個人の性的嗜好の問題ではない。いま小誌やBBCが過去の出来事を見つめ直すのは、標的にされた少年たちの多くが、それを拒絶できなかった理由にある。スターを夢見た彼らはジャニー氏の行為を拒むことで、「コンサートでの立ち位置が中央から追いやられる」こと、「グループとしてデビューできなくなる」ことを恐れたのだ。

『プレデター』でハヤシ氏は他のジュニアから、「これを我慢しないと売れないから」と諭されたと証言している。小誌でも被害に遭った少年が、〈でも、逆らえないですよ。やっぱりデビューしたいじゃないですか。それで、しょうがないですね。しょうがないしか、なかったんです……〉(99年11月11日号)と、苦しい胸の内を明かしている。

 ワインスタインは、スターへの切符となる映画のキャスティング権を握っていることが、性加害に至る権力の源となった。ジャニー氏も、少年をデビューさせ、スターへと変身させる圧倒的な力を持っていた。男性アイドル産業によって会社を築き上げた、ジャニーズ事務所の根幹にかかわるテーマなのである。だが、反応するメディアは、国内では皆無だった。

ADVERTISEMENT

ジャニー氏が亡くなった際もBBCは性的虐待について報道

「メディアの友人は『面白かった』と言ってくれましたが、後追いしないか聞くと、『それは微妙。会社の判断になるから』と」(中村氏)

 唯一、「陰りゆく、日本のスターメイカー」との見出しで報じたのが『ニューヨーク・タイムズ』(00年1月30日)。20年以上を経て、初めてテレビでジャニー氏の暗部を明るみに出したのも、海外メディアだった。

裁判で性的虐待が認定された

 キャンペーン開始直後の1999年11月、ジャニー氏と事務所は、小社・文藝春秋に対し、名誉毀損の損害賠償を求めて提訴。審理では、ジャニー氏本人や記事で証言した少年2人も出廷した。2002年3月の東京地裁判決は少年らの供述の信用性を認めず、小誌が敗訴。メディアはその事実を大きく取り上げた。だが東京高裁では状況が一転。2003年7月に下した判決では性虐待について、こう論じている。

〈原告喜多川が(中略)セクハラ行為をしているとの記述については、いわゆる真実性の抗弁が認められ、かつ、公共の利害に関する事実に係るものである〉

 ジャニー氏の性的虐待を認定し、名誉毀損には当たらないとしたのだ。ここで重要視されたのが、ジャニー氏の証言だ。少年たちの性的虐待についての告白に対し、法廷で「彼たちはうその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです」と述べていたのである。

 その後、ジャニーズ側は最高裁に上告したが、2004年2月に上告棄却。高裁判決が確定した。