スキルを自分の中に血肉化できる一冊
新著『すごい思考ツール』は、小西さんが新人の頃どんなコンプレックス抱えてやってきて、人生をどう歩いてきたのか、僕が知らないことも沢山書いてあって非常に面白かったです。これが綺麗に整理されたノウハウだけのまとめ本だったら、ここまで読者の心に響かないと思うんですね。
これほどの苦悩を背景にクリエイティブは作り出されているんだと圧倒されつつ、親近感も感じながらスキルを自分の中に血肉化できるような最高の一冊でした。
小西 ありがとうございます。自分の仕事を総括したいと考えたこともあって、自分が壁にぶつかったときにどうジタバタしたか、師匠の小霜さんや様々な人からの学びを得てどう乗り越えたかなどを書いていったら、どんどんエッセイ的要素も強まって、ただのHow To本じゃなく、人生とスキルが融合した本になりました。
ところで、泰蔵さんは壁にぶつかってジタバタされることってありますか?
孫 いつもジタバタしてるに決まってるじゃないですか(笑)。壁にぶつかるたびに本当に落ち込むんですけど、ある先輩から「壁にぶち当たっているってことは、チャレンジしているということ。逆に壁にぶち当たってないのはチャレンジしていないことだ」と言われて勇気づけられました。
大失敗した直後にぶつかった〈初期費用3000万〉の壁
小西 人生の中で最もチャレンジだったことって?
孫 たとえば、僕が27歳のころ、すごくやりたい事業があったんですが、事業で大失敗した直後でお金がスッカラカンだったんですね。その事業の実現には、当時はアマゾンのAWSみたいなデータセンターがありませんでしたから、自分でサーバーを買ってそこからサービスを提供しなければならず、その初期費用が3000万円ほどする状況でした。
やりたいことは明確だし、中身のコンテンツもハッキリあるけれど、とにかくお金がない。失敗した直後で、銀行は貸してくれるはずもなく、当時は投資家から資金調達する概念もなく、さてどうしようかなと。
小西 それはすごい壁ですね!
孫 とりあえずサーバーさえあればなんとかなると思って、製造元のメーカーに交渉しに行ったんですね。「いずれ絶対に買うから、ちょっと使わせてくれませんか?」って(笑)。「そんな話が通るわけないじゃないですか」と笑って断られるんですが、そこで「1番の販売先はどこですか?」と訊いたら、大量にサーバーを買ってデータセンターを立ち上げようとしている国内の会社を教えてくれたんです。
ただデータセンターといっても、今のアマゾンのAWSのように手軽にすぐサーバーが使えるサービスではなくて、例えるなら、何もないだだっ広いキャンプ場だけあって、必要なものは借りる人が自分たちで持ち込まないといけないのが当時の状況でした。
だからその会社に行って、「あなたたちは今、土地だけしかないキャンプ場です。それだと道具を揃えられる人しか来ないでしょ? でもテントやバーベキューセットやトイレを全部用意したら、みんな一般企業が手ぶらでキャンプしにきますよ」と力説したんです。