『弟の夫(1)』(田亀源五郎 著)

 GWの昼間、『弟の夫』地上波一挙3話放映を見ていたら泣いてしまった。恥ずかしい。原作のマンガは正直「こんなにわかりやすくいいお話にしなくてもいいのに」と思って入り込めないでいたのだが、これが実写ドラマになったとたんに感動の涙とは。だいたいマンガが実写になると「いいとこ原作の7掛け」ぐらいにしかならない、どころか7割引きぐらいひどいのなんてのがふつうなのに(マンガファンは作品の実写化については常に諦めてる)、『弟の夫』は「これを見て私は原作マンガの良さがわかった」。

 なんといってもキャスティングが絶妙であった。ことに把瑠都演じるところの、「弟の夫・カナダ人のマイク」。優しくていい人で、かつでっかい外国人のゲイ。視聴者がぱっと見て「この人はどうしても嫌いになれない」と思えるキャラじゃないと話が成立しない。ちらっとでもウソっぽさが混じったらすべておじゃん。それが「これノンフィクションじゃないか」というぐらい把瑠都にハマってて、「弟が後ろからマイクに抱きついてる写真」が出た時に涙がぐぐっと、こらえても押し出てきた。ああ、弟とその夫は幸せだったのだ。そしてその時はもう帰ってこない。

現役時代の把瑠都(写真右/大相撲初場所千秋楽の優勝パレードにて) ©JMPA

 弟の同級生のゲイ友達「カトやん」も、娘の小学校の担任も、とくに担任なんてちらっとしか出てこないのにドラマに深みを増す陰気さを出してたし、何よりも娘の夏菜ですよ。ありえないぐらい素直で人懐こく可愛い子。マンガでは、まるでマンガみたいに(へんな言い方だが)しか見えなかったのに、ドラマでは「いいコだなあ」という気持ちがあふれる。そう、マンガだと出来すぎな話なんだけど、ドラマでは「自然ないい話」。そういうのってめったにないことですよ。他にも、主人公の家の台所がすごくリアルな感じに“料理が嫌いじゃないがシングルファーザーの雑な台所感”をかもしだしていたところとか。細かいとこまで気を抜いてない。

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 ただ、ひとつ気になったのが、みんなで温泉旅行に出かけて浴衣でくつろいでる場面の把瑠都。外国人がはじめて浴衣着てあんなにサマになるわけないし、食卓に手伸ばすときに袖押さえる仕草の自然さ。あれは浴衣商売の元力士の地金が思わず出たところだ。まあ、その着こなしの自然さまで、このドラマの感動を高めてたからいいか。とにかく奇跡の「マンガ原作成功ドラマ」であった。DVD買お。

▼『弟の夫』
NHK総合 5/4(再放送)
http://www.nhk.or.jp/pd/otto/