滝沢馬琴の「南総里見八犬伝」を題材にしたNHK連続人形劇『新八犬伝』は、放送時間に子供の姿が公園から消えるといわれた伝説の番組。当時その子供の一人だった曽利文彦監督は、放送から50年経った今、自身で映画『八犬伝』を製作し、完成させた。

「『新八犬伝』の魅力はいくつもありますが、敵役の玉梓(たまずさ)のおどろおどろしさ、恐ろしさは夢に出るくらいの迫力で勧善懲悪の物語に欠かせない存在でした。特別な珠を持つ八犬士が集い玉梓を倒す。その設定に胸を躍らせたものです」

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

 いつか自分の手で――その思いを遂げる道のりは長かったが、映像化は諦めなかった。

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「八犬伝を題材に撮りたいと話をしても“なぜ、今?”と、企画としてなかなか通すことができませんでした。山田風太郎さんの小説『八犬伝』と出会ったのは15年ほど前でしょうか。この作品は、馬琴さんや彼と親交のあった葛飾北斎、そして『東海道四谷怪談』の作者・鶴屋南北らも登場させて、八犬伝を創作していく“現実”世界を描きながら、八犬伝の物語も進んでいく構成だったのです。もう、夢中になって読みました」

 今作の原作でもある山田風太郎の『八犬伝』は、戯作(げさく)「南総里見八犬伝」を「虚」の世界に、失明し筆を持てなくなっても28年かけ物語を完結させた馬琴の姿を「実」世界として、存分に描いている。

 馬琴を演じるのは役所広司。ぶつかりながらも馬琴を見守る北斎に内野聖陽。馬琴の妻に寺島しのぶ。息子・宗伯に磯村勇斗、その妻に黒木華。南北には立川談春と、「実」パートだけでもこの顔ぶれだ。

「登場人物は多いのですが、それぞれの役割を果たせるように短い尺でも関係性をしっかり見せる脚本になっています。父と子、夫と妻、戯作者と歌舞伎狂言作者。説明だけの人物は出していません。撮影の現場は特等席で舞台を観ているようでした。内野さんが動きのアドリブを役所さんに仕掛けると、役所さんも動じずに自然に受け止めて長回しの芝居が続く。お二人のやりとりは本当に絶妙でした」

©2024『八犬伝』FILM PARTNERS.

「虚」のパートでは伏姫に土屋太鳳、玉梓に栗山千明、浜路に河合優実。八犬士に渡邊圭祐、板垣李光人、水上恒司……とこちらも役者が揃う。

「『虚』のパートは時間的な制約から、どうしてもすべてを忠実にとはいきませんでしたが、馬琴さんの八犬伝に寄り添いキャラクターを作っていきました。悪役もこなせる栗山さんは特殊メイクも喜んで受けて下さり、玉梓像を一緒に作り上げられました」

 劇中、七代目市川團十郎に扮する中村獅童と、三代目尾上菊五郎に扮する尾上右近による「東海道四谷怪談」も流れる贅沢な一本に仕上がっている。

そりふみひこ/1964年生まれ。米・南カリフォルニア大学大学院映画学科在学中に、デジタルドメイン社でCGアニメーターとして『タイタニック』(97)のVFXに携わる。帰国後、『ピンポン』(02)で映画監督デビュー。その後も『ICHI』(08)、『鋼の錬金術師』(17)など話題作を数多く発表する。

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映画『八犬伝』
10月25日(金)、全国公開
https://www.hakkenden.jp/