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通勤で使う渋谷駅は、再開発に伴う大改修が何年も続き、新たな高層ビルが次々と建設されている。ただ、言い訳をするようだが、人の記憶というものはあいまいなもので、新たな建物により、街が更新されていくと、かつてそこにあったはずのビルや店、人の営みは次第に思い出せなくなっていく。私はこうした渋谷で続く再開発をもはや日常のものとして受容し、その変化に鈍感になっていた。

そんな再開発への考えが一変する出来事が2022年秋にあった。

それは、一人の記者から受けた「都心のある一等地で、悪質な地上げが行われています」という報告だ。

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ビルの入り口につるされた「腐った肉と魚」

地上げは「不動産会社が土地を買いつける行為」で、そのこと自体は合法な取引とされる。ただ、その土地を買うため、地主や借家人を立ち退かせる過程で、しばしば嫌がらせが行われてきた。

悪質な「地上げ屋」が横行したのは、昭和のバブル経済期。首都圏では1年で地価が3倍に急騰したところもあり、住民を立ち退かせるため暴力団などが関与して住宅やアパートなどを打ち壊したり、傷害事件まで起きたりするなど深刻な社会問題にもなった。

その地上げが令和となった今も本当に行われているのか。最初はにわかに信じられなかったが、記者から現場の映像を見せられ、はっとした。

そこに写っていたのは都心の住宅街にある築49年の雑居ビル。その軒先にロープでぶら下げられていたのは生肉や魚だった。壁にはスプレーで落書きもされていた。

調べると、このビルは2022年7月に地主から中小の不動産業者に売却されていた。現場周辺を取材すると、その直後からビルの住民のもとに深夜2人組が訪れて、引っ越し代は出すので2カ月以内に立ち退くよう求められたという。

「スーツを着た男2人が夜中の11時ごろにきた。『いったん考えるので日を改めてほしい』と言ったにもかかわらず、『いや、今すぐやってください』と言われた」(元住民)