結局、この住民は今後も夜中に何度も来られては迷惑だと考え、立ち退きに応じるハンコを押したという。ただ、入居者のなかには交渉に応じなかった人もいた。そうしたなか、行われたのがさきほどの悪質な嫌がらせだった。
住民が嫌がらせをされても警察は動かない
いったい誰がこうした行為に及んだのか。
私たちの取材で、男たちはビルの新たな所有者である不動産業者の従業員であることがわかった。さらに、驚いたことに、その業者は首都圏の別の場所でも悪質な地上げを行っていたのだ。
都内の駅から徒歩5分ほどの住宅街。住民は一帯を所有する地主から、土地を借りて家を建てて住んでいたが、この地主が亡くなったことをきっかけに一帯の土地が不動産業者に売却され、そこから立ち退きが求められるようになったという。
そこに住む夫婦が取材に応じてくれた。夫婦は2036年まで土地を借りる契約を結んでいた。そのため、立ち退きに応じなかったところ、さきほどの男たちが現場に居座るようになった。隣の土地にテントを張って朝まで大音響で音楽を流したり、外出する時に後をつけたりしたという。住民は警察や行政に何度も相談したというが、男たちは聞く耳をもたなかったそうだ。
「警察が『こういう行為をしないでほしい』と言っているのに、『ここは自分たちの土地なんだから関係ない』と突っぱねる。これだけの嫌がらせを受けているのに、(警察や行政が)一歩も入れないというのはどういうことなんでしょうか」(住民)
大手デベロッパーが地上げした土地を所得していた
取材した記者も、改めて警察や行政に取材した。すると、やはり明確な犯罪行為でないと取り締まることはおろか、止めさせることも難しいということだった。
土地の取引は、主に地権者と民間の開発事業者との間の問題であり、民事不介入の案件とされる。ただ、その原則は個人間の紛争である場合に守られるものであって、今回のような嫌がらせがそれに該当するというのは違和感があった。