―― 『ドレミファ娘の血が騒ぐ』になってからだと、エッチなシーンって、僕と麻生うさぎさんが絡んだシーンだけですよね。
黒沢 いやいや、あったんですよ。僕たち、そこまでアコギなことはしない。ちゃんといくつか撮ったんですけど、そののち、『ドレミファ娘』として再編集して公開する時に、エッチなシーンがあると成人指定になってしまう。そうなると、公開される場所が本当に限られるので、最低限にしてくれと言われて削ったんです。
―― それで、残ったのが僕のシーンだけだった。
黒沢 そうです。あれは大丈夫だというので。
―― あのシーンに関して聞きたかったんですが、あれ、逆回転で撮っていますよね?
黒沢 そうそう。逆回転だった。
―― 反復運動だから映画で見るとあんまり分からないけど、気を付けて髪の毛の動きに注目すると、不思議な動きをしている。あれはどういう狙いだったんですか?
黒沢 何でしょうね……ごめんなさい、何の狙いかは覚えてないんですけど。それは『神田川』の時もそうなんですけど、絡みのシーンのようなものをどう撮るかというのは……つまりもっと言うと、撮らなきゃいけないので撮るんですけど、あんまり撮りたくなかったんです。だから、ヘンテコリンにしたいという欲望はあったんです。しっとりと、すごくよくできた絡みのシーンなんて全然撮りたくないので、撮るけど変にしたい。『神田川』の時も、中抜き(注1)したり。普通じゃないようにしたいという一つの思いつきが逆回転だったんだと思います。ああいうポルノっぽいシーンは、若い頃から本当に得意でなかったんですね。暴力シーンとなるとがぜん頑張るんですけど。得意でないのに「ピンクなら撮れるよ」とか「日活ロマンポルノを撮りませんか」と声をかけられたら「やります」と言ったのが、そもそもの間違いの始まりなんですけど。それでも「撮りゃいいんだろ」と居直って逆回転で撮ったりして、やりたいことは他にあるんだといってやったのが、見事に日活の逆鱗に触れたわけです。
―― 日活の納品拒否は僕らもショックでした。でも、その後、一般映画として『ドレミファ娘』として作り直されたのは、黒沢さんにとっては理想に近づいたかたちだったんですか?