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 ワタルの話を整理すると、今回起きた事件は2022年12月。狛江の事件は翌1月で、逮捕は2月ということだ。

 私たちと渋谷で会った2022年11月から、事件が起きるまでの間に何があったのだろう。

「ワタル、事件はどこからつながっていったの?」

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「……闇バイトです」

「死にたい」って思ってしまう

 そこで立ち会いの職員から注意が入った。面会では事件の話はしてはいけないことになっている。私たちは保護者と一緒に、ワタルの今後の社会生活に必要な人たちという枠で面会を許可してもらっていたからだ。

 高坂くんと私はここまでだね、と顔を見合わせた。規則を破るつもりはなかったが、知りたい気持ちが先走ってしまった。

「弁護士さんとか調査官に、いまの自分の気持ちとかそのときの気持ちとか伝えられてる?」

 高坂くんが話を切り替えてくれた。

「今日の午前中に弁護士さんが来てくれて、話せました」

 ワタルは泣き止んではいたが、声はまだ震えている。

「ワタル、少年院送致になっても逆送で刑務所に行くことになったとしても、いずれ社会に戻るときはやってくる。そのときのことだけど、僕が運営するグループホームで再スタートをしてみないかなって思っているんだけど」

 ワタルにそう話す高坂くんも、過去にやり直しを誓ちかったときは、地元を離れ、新しい土地でイチからスタートした。ワタルの犯した事件や、人間関係のしがらみを考えたら、それもひとつの方法だと思う。

 高坂くんは自分が理事長をつとめるサポートセンターのパンフレットを差し入れし、施設の説明をしている。聞いていたワタルは少しずつ落ち着きはじめていた。

「高坂さんはわざわざ遠くから来てくれたんだぞ。お礼言わなきゃだぞ」

 父親がそう言うと、ワタルは小さな声でありがとうと言った。

「いいんだよ。『4sホーム』のパンフレットとルールとかの差し入れしたから読んでね」

 4sホームは、高坂くんの団体が運営する自立準備ホームの名前だ。

「私は本と便せんと切手を差し入れしたからね。手紙書くね。本は『セカンドチャンス!』の本だよ。人生が変わった少年院出院者たちって本だよ」

 面会の残り時間を表示するストップウォッチは、あと数分になっていた。

「ワタル、いま、何を考えてる?」

「死にたいって思ってしまう」

 高坂くんの言葉に、ワタルは泣きながら答えた。