本人や家族、周囲の人間関係……。さまざまな問題に端を発し、非行に走ってしまう少年少女がいる。彼らは何を思い、どのように未来を見つめているのか。
ここでは、作家、映画監督の中村すえこ氏の著書『帰る家がない少年院の少年たち』(さくら舎)の一部を抜粋。追い詰められ、闇バイトで犯罪に手を染めるワタル(18)のエピソードを紹介する。(全4回の3回目/続きを読む)
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出院準備寮で起こした規律違反
2022年7月。
今日はワタルの仮退院日。17歳で窃盗と暴行、恐喝で逮捕され、多摩少年院に収容されていた。インタビューから1ヵ月ぶりの再会だ。
取材スタッフと一緒に玄関で待っていると、ワタルと法務教官の先生たちが数人出てきた。「頑張れよ」とワタルと関わりのあった先生が声をかけた。「はい」と先生の声に姿勢を正しながらワタルが答える。
仮退院には、ワタルの聞き取りを担当してくれた高坂朝人くんも駆けつけてくれていた。高坂くんも非行に走った過去を持つ少年院出院者で、現在はNPO法人再非行防止サポートセンター愛知の理事長として、再非行・再犯防止の活動をしている。
「ありがとうございました」
ワタルは先生に深くお辞儀し、高坂くんと2人で多摩少年院の入口にある“極楽坂”の方へ歩き出した。
仮退院時には、見送りに出てくる法務教官の先生の姿を目にするが、先生たちが院生を送り出すというルールが決まっているわけではない。少年の門出を応援する気持ちからの行動だろう。私は法務教官にたずねた。
「先生、ワタルのことを少しお聞かせいただけますか?」
ワタルは1級生になってから「調査」になったと聞いていた。この時期に調査になるということは、出院延長の可能性もあったはずだ。
それまではずっと、むしろ優等生側だったワタルが、出院準備寮(1級生が過ごす寮)に移るときに起きたことだった。寮内の雰囲気がよくないことを知ったワタルは、自分がその雰囲気を変えるんだという気持ちで転寮したが、そこで周囲に流されてしまい、規律違反をしてしまった。
少年院では「自分の話」をしてはいけないという規則がある。自分の話というのは、どこに住んでいる、何の事件をしてここに来たなどの話だ。私がいたときは「社会の話」と呼ばれていた。ワタルはこの社会の話で調査になった。