社会でのワタルとの再会
自分を認めてくれる居場所が欲しかったのは私と同じ。あのときは自分の寂しい気持ちに気づかなかった。ワタルも私と同じように、自分を認めてくれる存在しか信じられなかったのかもしれない。
ワタルが仮退院してから1週間が過ぎていた。彼から連絡はくるだろうか。
信じて待つしかない。
そして、3週間を過ぎた頃だろうか、高坂くんから「ワタルとつながりました」と連絡が入った。
11月、ワタルが仮退院してから4ヵ月後、渋谷で会う約束をすることができた。
コロナ禍かも収束に向かいつつあり、渋谷は人であふれ返っていた。
待ち合わせはハチ公前。高坂くんと2人でワタルを待った。
「あれ、あの子じゃない?」
「いや、もっと身長高いですよ」
私の問いかけに高坂くんが答えた。
「あっ!」
高坂くんが右手を上げて歩き出した先に、ワタルの姿が見えた。
ワタルはスリムジーンズにTシャツ、髪の毛もセットされていた。少し痩せたように見える。メガネはなく、コンタクトになっていた。
改札口を間違えて出てしまったそうだ。きっと走ってきたのだろう、額には汗が滲んでいた。
高坂くんとワタルはハチ公を背に、横断歩道に向かって歩きはじめた。会話は聞こえないが、2人が笑顔で話しているのがわかる。
2人を追い越して、後ろ向きで歩きながらカメラを回し、その様子を撮影した。フレーム越しに見る2人は、久しぶりに会った友人同士に見える。
こうして少年院の中からつながり、社会で再会できるのはとても嬉うれしいことだ。再会し、無事、映画の撮影を継続できたことに安心した。
渋谷駅を出てミヤシタパークの屋上(宮下公園)まで上がり、ベンチを見つけて腰をおろした。
「よく来てくれたね。遠かった?」
高坂くんがワタルに話しかけた。
「はい。あ、いえ、はい」