本人や家族、周囲の人間関係……。さまざまな問題に端を発し、非行に走ってしまう少年少女がいる。彼らは何を思い、どのように未来を見つめているのか。

 ここでは、作家、映画監督の中村すえこ氏の著書『帰る家がない少年院の少年たち』(さくら舎)の一部を抜粋し、虐待され続け、明日が見えなかったコウタ(17)のエピソードを紹介する。(全4回の1回目/続きを読む)

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「お兄ちゃんが、最初殴られてて……」

 コウタは私と同じ4人兄弟だった。私は4姉妹の末っ子に生まれたから「すえこ」という名前になったと話すと、僕は2番目です、と笑顔で教えてくれた。

 コウタの家族は現在6人家族だが、幼稚園の年長くらいから養父、母、兄とコウタの生活が始まった。それより前の記憶はなく、実父の記憶はもちろんない。その後、妹、弟の順で生まれ、コウタはお兄ちゃんになった。

「下の妹、弟はかわいい?」

「はい。最近は生意気になりましたけど」

 さっきと同じ笑顔で答えてくれた。

「私、自分の子どもが4人いるんだけど、うちは仲良しなの。コウタのうちもそう?」

 さっきまでの笑顔が消えた。

「悪い。僕だけ悪いです」

「僕だけ悪いの? なんかそれ、変な言い方だけど……」

「他人から見ればすごいいい家族なんだろうなって。でも僕から見ると……そうじゃない」

 ふと、私が幼い頃、普通の家に生まれたかったと思っていたことを思い出した。私の父は働かず酒を飲んでは暴れていた。父は酔うと泣き言ばかりだった。母を殴る父が嫌だった。そして、殴られる母を見るのがつらかった。

 他人から見ればすごいいい家族って、じゃあ、コウタの目には家族はどう映っていたんだろう。

「それはずっと?」

「ずっと、っていうか、僕が小学校に上がったくらいからそうなんです」

 養父との生活が始まったすぐ後ってことだ。

「お父さんに自分だけ違く扱われてるとか、それか子どもたちを邪魔にするとか?」

 首を横に振る。

「お兄ちゃんが、最初殴られてて……」

 急に声が小さくなった。コウタは小さい頃の記憶を話しはじめた。