殴られるのは「自分が悪いから」…
コウタは母親のことを、「怖かった」としか言わない。
「暴力ってさ、日常的にあったの? それとも、ぶたれる前にこういうことがあったとか、何かがあったときにやられてた?」
「親の言うことを聞いてないときです」
「例えばどんなこと?」
「何かってことではなく、親がこれをやめろ!とか言ってることをやめなかったら、殴られる。お兄ちゃんは、かかとを踏む踏まないでボコボコにされてました」
「かかとって靴の?」
「はい。踏まないって注意して、また踏んでたから殴られる。嘘ついたからってさらに殴られる。もう、顔パンパンになってた」
「どっちに?」
「それはお父さん。馬乗りにされて」
「そんときはお兄ちゃんも小学生だよね?」
「小学校6年生か5年生」
「お母さんは止めに入ってくれなかった?」
「入ってない。一緒に怒鳴ってる」
「お前が悪い、みたいな?」
コウタがうなずいた。
コウタの話だけを鵜呑みにしてはいけないが、コウタにとって、親は自分を攻撃してくる人になっていたということだ。
暴力はコウタが中学生になってもつづき、家に帰りたくない気持ちはますます強くなっていた。
ちゃんとしていないと殴られるから、とコウタは言っていたが、私はその言葉がとても気になった。
「いい子にしていないといけない、ってこと?」
「そうしてないといけないし、そうできない自分が悪いから」
自分が悪い? コウタはそう言っているが、できない子どもは悪いのか。できないことをひとつひとつ教えていくのが子育てで、それができる楽しみがあるというのが親なんだと思うが……。
「なんでいい子にしていないといけないって思ったの?」
「お父さん、仕事で疲れてるし、約束とか守らない自分が悪いから、そうゆうことしないように、いい子でいようって思っていました」