中学になると、これまでの非行行為は「お金のため」に形を変えていく。盗んだブランドものを転売し、恐喝でお金を稼ぐ。行為はエスカレートしていった。ワタルは家出をくり返し、このときは親との関係性も悪く、親に怒られ殴られることもあったようだ。
そして中学3年生のときには、窃盗と集団道路交通法違反で逮捕されてしまう。家庭裁判所の審判の結果、ワタルは赤城少年院(群馬県前橋市)に収容されることになった。赤城少年院は第1種に分類され、ここは中学生を収容することができる。義務教育と同じ授業が受けられるということだ。中学生のワタルはここで半年間を過ごすことになった。
しかし、両親は家裁のこの審判の結果に納得できないと、高等裁判所に不服を申し立てる「抗告」をし、見事認められ、ワタルは実質2ヵ月で少年院から社会に戻れることになった。
抗告とは、裁判の結果に対して不服を申し立てる簡易な上訴手続きで、法律が特に定めている場合に限り申し立てることができる。「司法統計年報」を見ると、令和4(2022)年中の抗告事件は、受理の総数358件。そのうち、既済(結論が出たもの)332件、未済(年末までに結論が出ず、翌年に繰り越したもの)26件とある。
統計上はここまでしかなく、既済332件の内訳は公表されていないが、親しい家裁調査官、法務教官、保護観察官に聞いたところ、抗告が認められることは一様に「ごくわずか」「めったにない」という反応だった。
犯罪集団の暴走族が「唯一の居場所」
少年事件は家庭裁判所の審判で、抗告は高等裁判所の裁判官が判断をくだす。これにより審判の判断基準だけでなく、さまざまな視点で判断されることになる。私自身、多くの少年と出会っているが、抗告が認められたケースは初めて聞いた。ワタルはそのごく稀なケースだったということだ。
社会に戻ったワタルはその後高校へ進学したが、のちに中退してしまった。自由と持て余す時間がワタルの非行を加速させ、暴走族に所属するようになった。
暴走族はすでに化石状態かと思っていたが、形を変えて現在も存在していたことに驚いた。形を変えてというのは、暴走と喧嘩をしていた私の時代の暴走族とは違い、なんでもありの犯罪集団になっていた。
年齢幅もかなり広く、ワタルが入った暴走族はネットニュースになることもあった。上からの指示は詐欺の受け子を探すこと、チームに勧誘することだった。勧誘は、人数が増えればケツ持ち(暴力団関係者など後ろ盾となっている者)に上納金を用意する兵隊が増えるからだ。耐えられなくて飛んだ(逃げた)やつは、インスタで顔と名前を出され、公開処刑される。それでもワタルはこう言っていた。
「自分の唯一の居場所だったっていうか……。ここが自分にとって居心地がよかった」
ワタルは寂しかったのかな。インタビューを読み返していて、そんなふうに感じた。